グッド・ファザー、グッド・マザー

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 ***  イクス・ガイアは科学と魔法が融合してできた独特の文化を形成している。昔は科学派と魔法派で揉めに揉めて、大きな戦争が起きたこともあったのだそうだ。幸い、その大戦争が収束し、和平が結ばれて世界が一つに統一。五百年前に一つの惑星国家として再出発して以来、大きな戦争には至っていないのだが。  元々種族としては穏やかな者も多く、他の惑星とも少ないながら公益を行ってのんびりと巡ってきた種族である。反面、長らく続いた平和は人に退屈を齎すものだ。最近テレビで人気になった占い師が余計なことを言い出して、プチパニックが起きているのは否めないのである。  すなわち。イクス・ガイアという惑星をまるごと滅ぼす災厄が迫っている、と。  あまりにもふわふわしすぎた予言であるし、明確にいつとも言われていない。信憑性も何もあったもんじゃないとロイは思うのだが、残念ながらそれを言い出した人間がまずかった。若者に人気の占い師、クオリネ・ノーソン。おかげでその世界の終末に向けて、慌てて防災グッズを買いあさったり、あるいはパートナー探しに奔走する者達が増えてしまっているのだという。ベティへの手紙もその影響だろう。世界が滅ぶのなら、慌てて彼と子孫を作っても大して意味などないような気がしてしまうのだが。 「ごめんなさい、遅くなりました」  昼の休憩時間。食堂でいつものようにシノアを待っていたロイは、後ろからかかった声に“ほい”と方手を上げて見せた。  ロイの仕事は決まった休憩時間というものがない。安い固定給をもらいつつ、成果を上げるごとに給料が増えるというシステムを取っているからだ。公務員であるからして他の企業ほどブラックではないが、この国の研究職としてはわりと一般的な働き方である。いつ休憩を取っても問題はない。ただし、サボって成果を上げられないと飯が食えないというシビアな世界だ。  幸い、今ロイが着手している研究の発表会はまだだいぶ先である。こうしてシノアと一緒にごはんを食べるために、彼女にあわせて昼休憩を取るのもけして不可能ではないのだった。 「いいって。長電話に捕まってたみたいだし?」  ロイがにやりと笑いながら言うと、シノアはげんなりした顔でAランチのおぼんをテーブルに置いた。 「まったくです。聴いてくださいよ、ロイ。今朝見たでしょう、あの大量の手紙!中にはすっごい気持ち悪いものもあってですね……ぶっちゃけ、ロックハート教授がOKも出してないのに、手紙の中に唾液とか血液とか入れてくる馬鹿がいるわけでして」 「き、きっも!警察に通報していいだろソレ!」 「ですよねー。……そういうことをやりかねない人達って、電話もかけてくるんですよ。研究室へのホットラインがないから、主に代表電話に。で、ロックハート教授を出せって怒鳴ってくるんです。うち、いつからクレーマー対応の部署になったんですかね。おかげで他の仕事が全然進まないったら」 「お、お疲れ……」
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