グッド・ファザー、グッド・マザー

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 ここの総務部というのは要するに、アメルダシティの役所のまとめ役を担っているようなもの。各種部署から出される申請書類を振り分けて別部署に渡すのも、多くの企業や都市を相手に適切な取次をするのも全部総務部の仕事だ。幸い、今は繁忙期ではないもの。そんな個人的な理由で休憩時間を押されるほど長電話をされるのは、正直たまったものではないだろう。  そもそも、相手のロックハート教授がまだ十四歳で、子供を作ることが法律上許される年齢ではないのである。パートナー申し込みを送りつけてくる連中は、そのへんをどこまで理解しているのだろうか。 「……世界の終わり、なあ。もうすぐ世界が終わると思ったら、急いで子供を作らないといけないって思うのかな。それも、少しでも優秀な人間の、さ」  ふと、思ったことをロイは口にした。自分もシノアもまだ十五歳だ。つまり、あと五年は子供を産む側にも、産ませる側にもならない。  自分達の種族は相互に遺伝子交換をすれば、実は同時にパートナー両方が妊娠して子供を産むことも可能であったりするのだが。子供を妊娠して働くのは大変だし、産むとんもなれば当然命の危険が伴うものである。金銭面の問題もあるし、パートナー両方で相互妊娠しようと考える者は稀だった。  つまり、殆どのカップル(恋愛感情がなくても成立する)は。どちらかが確実に“お父さん”になり、どちらかが確実に“お母さん”になるのである。  大昔と違って。たとえば少年であるロイと少女でシノアがパートナー契約しても――子供を産むのがロイ、産ませるのがシノアなんてことも十分に可能であるのだ。 「お母さん、の能力の方が遺伝しやすいんだよな。だから、優秀とされた者がお母さんになることが多いし、子供は母親の苗字を引き継ぐのが一般的だ」 「そうですね。ロックハート教授に手紙を送っている人達も、ほとんどが彼にお母さんになって欲しい人達なんでしょう」 「うん。それはまあ、わかる。わかるんだけどさ……どうしても理解できないというか」  自分に自信のある者ほど、母親の方を担いたがるのがガイアの民だ。それがどれほど心身に負担の大きい役目であったとしてもである。  ロイがわからないと感じるのは、父親の方なのである。 「お母さんって大変だよな。ガイアの民の子は、半年から一年の間で生まれてくるのが普通だろ。長いと二年とかになることもなくはない。その間ずーっと、お腹に赤ちゃんを宿して守ってないといけない。そして、子供を産むってやり方は大昔と変わらず、死ぬほど痛いし命懸けだ。それでもお母さんを担うことを選ぶ人が多いのは、能力が遺伝しやすいからなわけだけど。……じゃあ、お父さんを選ぶメリットって、なんなんだろうなと思って」  からん、と。ガラスコップの中の氷を、からからと揺らして観察しながら。ロイは尋ねるのだ。  自分とシノアは、二十になったらパートナー契約をしようかという話が持ち上がるくらいの仲ではある。ロイもシノアが相手なら異論はない。シノアも良いと言っている。自慢じゃないがお互いに優秀な公務員であるので、生まれる子供のスペックはかなりのものが期待できることだろう。  問題は。どちらがお父さんになり、どちらがお母さんになるのかということで。
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