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彼女の素顔
大学に入り、一人暮らしを始めてからようやく落ち着いてきたというところで彼女ができた。 そこから年下の彼女と同棲している。 小さいながらも生活に不便はなく、通学にも適して満足していた。
「いいな、あのルアー! 本当に小魚にしか見えないよ。 でも予約がいっぱいで、なかなか買えないのかー」
「俊樹(トシキ)って本当に釣りが好きなのね」
彼女が夕食の準備をし、俊樹はテレビを眺めている。 そんな些細な時間ですら、幸せを感じていた。
「結子(ユウコ)も一緒に、釣りをやったらいいのに」
「水場って、化粧の天敵だからね」
ただ一つ不満があるとすれば、彼女が素顔を全く見せようとしないこと。 付き合い始めというのならともかくとして、もう一年半。
それは常日頃から感じていて、この日もつい文句が口から飛び出していた。
「外なら仕方ないとしても、家でくらい化粧を落とせば?」
「『化粧している私が可愛い』って、言ってくれたじゃない。 それに・・・前にも言ったけど、肌が荒れていて見せたくないの」
「構わないって。 僕は君の容姿に惚れたんじゃない、中身に惚れたんだから」
「なら、化粧をしていてもいいっていうことでしょ? だって、私の中身が好きなんだから」
「そうだけどさ・・・」
確かに彼女の見た目を可愛いと思う気持ちはあるし、性格が好きだというのも嘘ではない。 ただ化粧を見せないということは、自分のことが信用されていないような感じがしてしまうのだ。
「ねぇ、ご飯食べよ? 冷めちゃうよ?」
「そうだね。 結子のから揚げ美味そうだなぁ」
食事中も食後も、決して化粧は落とさない。 風呂も当然別で、鍵をかけてメイクをする程だった。
「せんぱぁーい! 俺、彼女にどう思われてんだろう・・・」
俊樹はバイト先で彼女のことを『女の扱いなら俺に任せろ!』といつも自信たっぷりな先輩に、相談していた。
「化粧なぁ。 男は知らない方がいいこともあるからな」
「そうは言っても、ずっとっていうわけにはいかないじゃないですか」
「一生化粧したまま、っていう選択肢もあるぞ? 不倫をしてもバレなければ問題ない、的な」
「え、先輩、もしかして・・・?」
「あったりまえ! と言いたいところだが、そんなことしてないわ。 ウチのカミさん、キレたら怖ぇもん」
“尻に敷かれているなぁ”と、俊樹は思いつつ続ける。
「化粧って肌に悪いって聞くし、肌を休ませる時間も必要じゃないかなって・・・」
「だったら、俺のカミさん、紹介してやろうか?」
「えッ!?」
「いや、俺の奥さんをやるっていう意味じゃないぞ? スキンケアを作る会社で働いているからさ。 何か、ヒントになるかもしれないと思って」
「なるほど。 それじゃあ、お願いします!」
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