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数日後、紹介された先輩の奥さんと共に研究開発室までやってきていた。 本来、一般人が入ることはできないのだが、特別だ。
―――スキンケアで肌質が改善されれば、結子が化粧を止めるかもとは思ってはみたけど・・・。
正直な話、随分と遠回りしているような気がした。
「彼女さんのことを心配してあげるなんて、優しい彼氏ね。 旦那の可愛い後輩っていうことで、今日は一つタダであげる」
「え、いいんですか?」
“高いお金で何か買わされるのではないか”と不安に思っていただけに、嬉しい言葉だった。
「まずは、彼女さんの肌の状態を知った上で化粧品を選ばないとね。 化粧品というか、肌荒れをなくすスキンケアでいいのかな?」
「はい!」
奥さんに色々と彼女の肌事情を聞かれる。 だが、俊樹がそれを答えられるはずもなく。
「本当に彼女の肌質を改善してあげる気はあるの?」
「・・・す、すみません」
「スキンケアは、その人に合ったものじゃないと余計に荒れることもあるの」
彼女は呆れたように言うと、一枚の紙きれを渡してきた。 それはアンケート用紙で当然俊樹に記入できるものではないので、結子に書いてもらうためのものだろう。
ただこうしているのも、結子には秘密にしている。 こんなアンケートを渡せば、怪しまれるのも当然だ。
―――いや、でも、そんなことで怯んでいても仕方がない。
ということで、結子にアンケート用紙を渡すことにした。 結子が言うにはスキンケアに効果があった試しはなく、どれも失敗で終わっているらしい。 だから、全てを諦め化粧で素顔を覆ってしまっている。
もう荒れている肌が、これ以上荒れても構わないと思っているようだ。
「ありがとう。 これ、女性に記入してもらう必要があったからさ」
「いいけど・・・」
疑われてはいるようだが、何とかしのげたようだ。
数日後、バイトの先輩の奥さんとまた会い、結子に記入してもらったアンケートを手渡した。
「うーん、彼女さんの肌は結構深刻ね。 これに合ったスキンケアは、今のところないかも」
「そんな・・・」
「・・・あ、そうだ! よかったら、彼氏さんが作ってみる?」
「え、僕がですか?」
「そう。 彼女に合った、世界でたった一つのスキンケアを作るの!」
俊樹にできるのは、アドバイスに沿って配合を考えることだけだ。 本来、部外者がそんなことできるわけないのだが、秘密かつ特別にやってくれるらしい。
「もし彼女の肌関係のことで何か分かったら、また教えてね」
「少しずつ探りを入れてみます」
それから俊樹は、頻繁に会社を訪れていた。 パッケージのデザインも凝ったものがいいと思い、色々と提案。 まるで誕生日プレゼントを作るような気持ちで、そこへ通っていた。
「ただいまー」
「おかえり・・・」
ある日のこと、化粧品開発(?)を終え家に帰ると、結子が寂し気に椅子に座っていた。
「どうしたの? そんなに暗い顔をして」
「・・・私に何か、言うことはないの?」
「言うことって?」
「・・・最近、帰りが遅いよ。 何をしているの?」
彼女との時間が減っている自覚はあった。 だが、今まで何かを言われることがなかったため、問題ないと思っていたのだ。
―――驚かそうと秘密にしているから、言えるわけがないよな。
黙っていると、彼女は立ち上がり台所へ歩いていった。 予め用意されていたであろう夕食を黙って運ぶと、そのまま寝室へと引っ込んでしまう。
「・・・もういいよ」
寝室には鍵をかけられ、用意されたから揚げはすっかり冷え切っていた。
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