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それから二日後。 相変わらず帰るのが遅くなってしまった。 それが原因なのか、家に帰ると結子がいない。 慌てて電話をすると長めのコール音の後、素っ気ない応答があった。
「何?」
「今どこにいるのさ!」
「どこって、実家だけど」
「どうしてそんなところにいるの?」
「俊樹・・・。 あのね、私見ちゃったんだ。 女の人と一緒に、楽しそうに歩いているところ」
「ッ・・・!」
先輩の奥さんのことだとすぐに分かった。 他に誰かと歩いていたりなんて、していないからだ。
「いや、浮気とかそういうのじゃ全くないんだよ。 あの人は、先輩の奥さんで・・・」
「不倫・・・しているの・・・?」
「違うって!」
やましいことは何もしていない。 なのに、心臓の音が破裂しそうな程に鳴っている。
「私、化粧を落とすのは嫌だっていうのに、取れ取れ言うし。 私を遅くまで一人で待たせて、俊樹は女の人と楽しそうにしているしさ」
「それは・・・」
携帯を持つ手が震えていた。 誤解なのに、電話だからか上手く伝えることができない。
「会って話そう。 そうすれば、全て誤解だって分かって・・・」
「もういいよ。 私たち、ちょっと距離を置いた方がいいと思う」
この時初めて、彼女がどれだけ追い詰められていたのかが分かった。 あまりにも軽く考えていた。 あの夜からシグナルは出ていたのに、驚かせようと思う気持ちばかりが先走ってしまっていたのだ。
「結子・・・」
電話は既に切れていた。 かけ直そうかとも思ったが、全身の脱力感に指が動かなかった。
―――・・・終わってしまったんだろうか。
今でも彼女のことが好きだ。 素顔を見せてくれないなんてどうでもよくて、ただ結子のことが好きだった。
―――自分でも、言っていたのにな。
その日から、二人の住まいは一人きりの住まいになってしまった。
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