feel.1

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「…泣いてた」 榊さんの長い指が慰めるように私の目の下をそっとぬぐった。 優しい指の感触が頬をくすぐる。 触れた指から優しさが浸透して、ささくれだった感覚神経を包み込んでなだめる。 「すみません、なんか、…昔の夢を見てたみたいで」 何気なさを装って、言い訳するようにつぶやくと、 「そうか」 榊さんは私の頭の上に手を置いて、ポンポン撫でた。 温かくて、大きくて、安心する。 私にとって榊さんは、直属の上司以上に特別な存在だ。 榊さんは。 榊さんも。 感情の匂いが視えない。 凪いだ海のような匂いがする。 包み込むように優しくて穏やかな、彼自身の匂いがする。 それは、 胸が痛くなるくらい切実で愛しい黎くんの匂いとは違うけれど、 呼吸することを許されているような心が落ち着く匂いで、 「傷口、痛む? 看護師さん呼ぼうか」 こんな人がずっとそばにいてくれたらいいのに、と願いたくなってしまう。 「痛くはないですけど、…」 言いながら頷くと、榊さんがナースコールを押してくれた。 「…そばにいるから」 低くセクシーな声を響かせて、私の頭を優しく撫でる榊さんの左手薬指には、 …指輪がある。 
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