De belles fleurs rien que pour moi

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 フランス語で『俺だけの美しい花』と囁いた魔法使い――クロード・ダモンは、ほくそ笑みながらカミラの乳房に両手を添え、恭しい態度で心臓にキスを贈る。  その瞬間――ぶわぁっと前世の記憶が洪水のように雪崩込む。  カミラは。美花は。ちいさな胸の乙女は。  羞恥と後悔に塗れながら、宝石のような瞳からぼろぼろと、大粒の涙を零す――…… 「……う、ぅわぁ――ぁああああんっ!!」    * * *  前世の存在など煩わしいものだとばかり思っていた。  ましてや忌まわしい記憶を忘却することもできないまま転生し、魔法使いといういままでにない職種に就いたクロードにとって、シンデレラの世界は鬼門ですらあった。  それでも、かつて自分が愛した仕掛け絵本の世界同様、この異世界でも魔法使いとして不幸なヒロインたちを幸せにすることが自分の仕事なのだと悟った彼は、前世の記憶に蓋をして生きていた――自分の教え子が、よりによってシンデレラに転生していたと知るまでは。
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