198人が本棚に入れています
本棚に追加
1-4
アルファルドと女子寮の前で別れると、私は三階の自室へ向かった。部屋の鍵を開けて中に入ると、ソファに座っていたルームメイトが顔を上げる。
制服姿の私を見て「あらまあ……」と呆れたように呟いた。持っていた刺繍枠を傍に置いて腕を組むと、綺麗な眉を顰める。
「転入して二週間で朝帰りだなんて……」
「あー……うん。図書館でぶっ倒れてさっきまで寝てた」
嘘は言ってない。
「まぁ! そうだったの……ごめんなさい。知らなかったとはいえ酷い事を言いました」
「いや、自己管理できてないのがいけないんだ。何を言われても仕方ないよ」
部屋に入るまでに談話室を通るのだが、休日の昼頃に制服で外から帰って来れば目立つに決まっている。案の定、他の女生徒から散々ヒソヒソされたし……。
「ずっと頑張っていたものね。今までの疲れが出たのね。体調はどう? 医務室に行く?」
「ありがとう。ただの寝不足だったからもう大丈夫だよ。エルミーナ」
私がそう答えると、エルミーナは微笑んで頷いた。
そういえば、こうして面と向かって話をするのは初日以来だ。私は自分の机の上に鞄の中身を出しながら、ちらちらとエルミーナを観察した。
刺繍を刺す手元を見つめ、少し俯き加減の薔薇色の頬に、長い絹糸のような金髪がひと筋、艶やかな影を落とす。降り積もったばかりの新雪のようにシミひとつない白い手が髪を耳にかけて、澄んだ水色の瞳が瞬いた。
黒髪に青みがかった灰色の瞳、まめと生傷の絶えない硬い戦士の手の私とは正反対の北国美人だ。
エルミーナの立ち居振る舞いは美しく気品があるし、言葉使いも発音も綺麗だし、たぶんどこぞの貴族のご令嬢なのだろう。この学院に入らなければ、私と会う運命になかった人かもしれない。そんな雲の上のお嬢様と私のような一般庶民が、こうして同室になったりするのがこの学院の風変わりなところである。
最初のコメントを投稿しよう!