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 私が話し終わるまで、エルミーナは静かに聞いていてくれた。やがて沈黙が部屋を満たし、降り出した雪が窓を叩く音だけが響いた。  ついでという訳ではないけれど、昨夜の出来事と一緒にその原因について――つまり、私の体質について――掻い摘んで説明した。  さて、どうなるか。  傷は浅い方がいい。失望するなら早い方がいい。今までだってそうだった。  どこか他人事のように思いながら、私の膝に顎を乗せて眠ってしまったオリオンの頭を撫でていた。モフモフとした手触りと温かさに、ささくれた心が癒えていく。  そのまましばらく待っていると、エルミーナは静かに口を開いた。 「少し驚いたけれど……話してくれてありがとう。とても勇気のいることだったでしょう?」 「えっ……?」  エルミーナは向かいのソファから私の隣に移動すると、私の手に自分の手を重ねた。 「私は今まで周りに貴女のような人は居なかったから、貴女の苦しみを想像することしかできない。とても失礼なことをしたり、言ってしまうかもしれない。だから今後もし嫌だと思うことがあったら教えてね」  まるで『今後』があるような言い方に、僅かに擡げた希望を慌てて打ち消す。  そうやって、私も父さんも何度も失望したじゃないか。期待するだけ無駄なんだ。 「君は私が獣人だからといって差別をしない現代的な考えを持つ賢明な人だと思う。君の気持ちは嬉しいよ。だけど、私に限っては正しく恐れるべきだ。深く関わらない方がいい。今まで通り、ただのルームメイト。ただの顔見知りとして扱ってほしい」  私は努めて突き放す言い方をしたけれど、エルミーナは承服せず首を横に振る。 「……セリアルカ、貴女は気付いているかしら? 私の思いを決めつけて、怯えているのは貴女の方よ? 私は貴女を傷つけないわ。貴女の秘密を言いふらしたりしない。だから怖がらなくていいのよ」  言われて初めて、私は自分の心が酷く乱れていることに気が付いた。  私は、どうしたいんだろう?  エルミーナの気持ちは本当に嬉しい。転入してからの二週間も、その前もこんなに優しい言葉を掛けて、関わろうとしてくれたのはエルミーナだけだった。  エルミーナの澄んだ水色の瞳は凪いだ早朝の湖を思わせる。波紋ひとつ揺るがずに、真っすぐに私を見つめる強い光。揺らいでいるのは私の方じゃないか。
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