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 エルミーナとなら普通の友人関係を築けるだろうか?  信じたい気持ちはある。けれど、僅かな希望に縋るには、私たち家族は傷つき過ぎていた。何も考えずにその手を取れる程、もう無邪気にはなれない。  優しい人、良い人こそ、私から離れた方がいい。  だから、ごめんね。これから私は怖がらせることを言わなくてはいけない。 「……生まれながらの狼女はとても少ないんだ。けれど、狼女は狼男以上に恐れられている。何故なら狼女の私は、狼男を呼び寄せるフェロモンを撒いているから。今は薬で抑えているけど、近づけば鼻が利く奴にはわかってしまう。狼男は、たぶん君たち人間が想像する暴力的で残忍で執念深い『恐ろしい獣人』そのものみたいな奴らだ」 「セリアルカ……」  エルミーナは悲しげに呟いて、そっと私の背中を撫でる。膝の上のオリオンも心配そうに上目遣いで私を見上げていた。 「獣人は血統を重んじるから、(つがい)も本来は同じ種の獣人が望ましい。だから、滅多に生まれない狼女は狼男に狙われやすいんだ。――私のお母さんは人間だったけれど、私を狼男から守って殺された。私の近くにいたから私の匂いが移って、狼男を余計に興奮させてしまったんだ。……それぐらい私の匂いは危険なんだよ」  私は口を大きく開けて、自分の犬歯を指し示した。オリオンがじっと私の口の中を覗き込んでいるのに気が付いて複雑な気分になる。 「獣人はこの歯の裏に赤い小さな牙がある。その牙で噛み付いた相手を、『眷族』と呼ばれる自分と同じ種の獣人に変えることができるんだ」  獣フェチって獣になりたい欲があったりするのだろうか?  獣人は先祖返りしやすいから、人間と結婚する場合は眷族にしてからの結婚が推奨されている。もし万が一、どうしても婚約破棄できずにアルファルドと結婚することになったら、私は彼に噛み付いて眷族にしなくてはならない。そんな未来が来ないことを願っているけど……。そんなことを思って、更に憂鬱になった。 「これは一度噛み付いたら抜けてしまう。生まれながらの狼女はとても少ないから必然的に、狼男の番は人間の女性になる。中には結婚を望まぬ相手に無理矢理噛み付いて眷族にして連れ去った例もある。君に何かあったら私は……」  それでもエルミーナは優しく私の手を包んで握る。私はその手を振り払うことができなかった。 「ありがとう。貴女が他人と関わることに怯えていた理由が分かったわ。でも私は大丈夫よ。私には強ぉ〜い味方がいるし、危ないことには慣れているから。だから心配しないで。むしろ私の側に居た方が貴女も安全な気がするわ」
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