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「な、何を言って……」
エルミーナはふふんと胸を張って少し誇らしげに続けた。
「秘密があるのは貴女だけじゃないのよ? 私にも婚約者がいるの。彼なら学院の内情に詳しいわ。もし男子生徒に狼男が居るとしたら、不用意に近づかないように知っておいた方がいいんじゃないかしら? ――彼なら貴女の力になってくれる。私が保証する」
「だ、ダメだよ、そんなぁ」
「ふふふ。心配そうな顔ね! 頼るかどうかは、彼に会ってから決めてもいいと思うわ。きっと、驚くから。……それに、あの人はそんな獣人の現状を知ったら放っておかないと思う。一見冷たそうに見えるけれど、心の中は熱い炎のような人だから」
狼女の危険性についてしっかり説明した筈だけど、ちゃんと分かってくれたのか心配になってきた。私の弱々しい抗議の声は聞こえていないようだ。
いたずらっぽく笑うエルミーナは、急に真剣な顔で私の頬を両手で挟んだ。
「居心地の良い場所、居たい場所があるなら逃げてはダメ。その時勝ち取る事ができなくても、負けられる内に上手な負け方を学べ。って、彼の受け売りだけれどね。もちろん、貴女がどうしても私が嫌というなら諦めるけど……」
「そんなことない!」
大きな声で言ってしまってから、ああしまった! と後悔した。エルミーナ満足そうに微笑むと勢いよく抱きついてきた。どさくさに紛れてオリオンも楽しそうに私の頬にぐりぐりと鼻を押し付ける。
「接触はダメだってば!」
「往生際が悪いわよ〜? 大丈夫。取って食ったりしないわ!」
つい最近同じセリフを聞いた気がして、私は顔をしかめた。そういえば、さっきエルミーナ妙な事を言ってたな。
「ねぇ、君さっき私にも婚約者がいるって言ってたけど、どういうこと?」
エルミーナが身を離してキョトンとした顔で私を見る。うわ、なんか嫌な予感……
「えっ……貴女、アルファルドの婚約者なんでしょう? 転校してくる前から噂になっていたわよ?」
「なっ!? 誰がそんなこと」
「誰って、アル本人が嬉しそうに言ってたわよ?」
やっぱりアイツかー! 道理で転校初日からよくわからない難癖を付けて絡まれると思ったんだ!
したり顔のアルファルドが目に浮かぶようで、私はグッと拳を固めた。
「エルミーナ、聞いて。今までの話全部忘れていいからこれだけは覚えて。私は、アイツと、婚約してない!」
「え、ええ〜?」
私はエルミーナの肩をガタガタと揺すりながら、全ての元凶であるアイツに、どう仕返しをしてやろうか必死に考えるのだった。
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