1-1学院の狼

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 はい。自業自得ですね。  獣人のくせに月の満ち欠けを把握していなかった私が悪い。  奇跡的に凍傷も無いし、拾ってくれた人には感謝してもしきれない。後でお礼をしなくては。人間サイズの大きな狼を拾って、こんなに親切にお世話をしてくれる人が悪い人だとは思えないし、今のところ差し迫った危険は無さそうだ。下手に暴れず脱出の機会を狙おうか。  寝そべったまま室内を見回し、脱出計画を練っていると、私の背中に顔を埋めていた彼が目を覚ましたようだ。  私を抱き枕にしていた腕が緩んで、やっと解放されると思いきや、彼は毛布の中に腕を突っ込む。突然私の左の前足の付け根あたりを探る。思わずヒュッと喉が鳴ってしまった。  脈拍を測っているのだと理解はしているけど、そこは胸なんだ! 今君は女性の胸を触っているんだ! 狼の姿だけど!  こそばゆくて堪らず足をバタバタと暴れだすと、耳のすぐ後ろでくすくす笑い声が聞こえた。 「しーっ、すぐ終わるからいい子にして」  ピタリと動きを止めた私の背中を、彼は満足そうに優しく撫でる。心なしかなんだか手つきがいやらしい。  今にも爆発しそうにバクバクと鼓動する心臓で脈拍を測っても、何の参考にもならないんじゃないか? いや、そんなことより今の声……。 「……あったかい。良かった。君、雪に埋もれていたんだよ? 無事で良かった……」  声に聞き覚えがあった。よりによって、コイツに拾われるなんて……。  気が遠くなってグッタリしている私に、彼は嬉しそうに話しかけてくる。 「まだ外は酷い吹雪だ。昼頃まで止まないらしいから、ゆっくりしていって。ここは誰も来ないから安全だよ」  私の背中に頬ずりしながら優しく囁く。された私は全身に鳥肌が立って腰が抜けている。  この人は私が凍死しそうなところを助けてくれた命の恩人である。お礼はきちんと言うべきだ。頭ではわかっているけれど、心が拒否していた。 「ふわふわ……良い匂い……綺麗な毛並みだぁ……」  そうでしょうとも。白や灰色はあれど、銀色は珍しいからね! 毛並みを褒められるのは嬉しい。でもだからといって触っていいとは言ってないから!!  ジタバタ暴れて、なんとか寝返りを打つと、彼の顔を前足で力一杯押し退けた。  白い頬にかかる柔らかそうな白金色の髪。知的な光を湛えるエメラルドグリーンの瞳は、全てを赦すような優しい眼差しを向ける。絵画の中から抜け出したかのような美青年のおでこと頬には、今しがた私が押したばかりの肉球の判子が付いていた。 「急に暴れ出してどうしたの? どこか痛い?」  そう言って背中を撫でられると、ぞわりと毛が逆立った。私の隣に横たわって同じ毛布に入っているこの男の顔を忘れるはずがない。オクシタニア伯の息子、名前は……。 「狼の姿も綺麗だよ。セラ」  ああ、私の楽しいスクールライフ終わったわ……。
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