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 初めて彼の写真を見た時、『こんな貴族のお坊ちゃんが私を選ぶわけないでしょー! 狼女がいいなんて、絶対何かやばいご趣味をお持ちな気がする!』と父さんと軽く喧嘩になったことを覚えている。  写真の中で微笑むのは、それはそれは儚げな美少年だった。私の方が強そうという謎の自信を持った程だ。  先方は、何をどう聞いたのか、私が彼に興味を持ったと喜んで、その日から怒涛のプレゼント攻撃が始まったのだった。下手に興味を示すと、相手に期待させてしまうと理解したので、それ以降は彼について何も知ろうとはしなかった。  そんな彼、オクシタニア伯の息子アルファルドが、王立学院の生徒だと知ったのは、私が学院に到着してすぐのことだった。  大雪の中、教科書類や筆記用具を入れた鞄を背負い、剣技の授業に使う木剣や真剣の入ったケースを肩に掛け、足元には制服や着替え、生活用品一式を詰めた大きな鞄という重装備。  学院の地図を手に教務課棟を探して歩いていると、向こうから手を振りながら歩いてくる細長い人影を目にした。 「王立学院へようこそ。雪の中、大変だったね。荷物運ぶの手伝うよ」 「あ、ご親切にありがとうございま…………す?」  一番重かった大きな鞄を軽々と引き取って、こちらに手を差し伸べる青年。頭ひとつ分高い位置にある、その素晴らしく整った顔を見上げて、私は呆然と言葉を失った。  見惚れたと言っても過言ではないかもしれない。写真で見た儚げでどこか冷酷そうなイメージとは違って、私を見つけた事を心から喜んでいるように見えたから。  冷たい雪に覆われたモノクロの世界で、彼の鮮やかなエメラルドの瞳は暖かな春の予感を思わせた。懐かしいと感じたのは、春が恋しいからだろうか。  それが、私が覚えている彼との二回目の邂逅だった。
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