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1-3
突如、ぼふんとすごい音がして濛々と煙が上がる。私は長いため息をついて俯く。さっきより床が近くにあって、モフモフの自分の前足が見える。
まだ夜が明けないうちに、無理矢理人間の姿に戻ったことの反動だろう。私の足元には見事に脱げた服やブーツが散らばっていた。
「ごめんね。驚かせてしまった?」
驚いたわけじゃない。なんだか気が抜けてしまっただけ。
どさくさに紛れて、またモフろうとする彼の手を容赦無く叩き落として私は毛布に頭から包まった。
あまりにもアルファルドが平然としているものだから、自分の感覚に自信がなくなってきたけれど、今私プロポーズされたよね?
「……機嫌なおして? ね?」
彼は毛布の上から背中を撫でるけど、私がうんともすんとも言わないので、そのまましばらく撫でた後、会話を諦めたのか気配が遠ざかっていった。
――目が覚めたらここから脱出して、父さんに抗議と確認の手紙を書く。いや、まずは服を着るところからだ。……獣人ってほんと面倒な生き物だ。
そんな事を考えているうちに、私はゆるゆると眠りに落ちていった。
次に目を覚ました時、部屋の中に彼は居なかった。
彼の代わりに居たのは、ポニーぐらいの大きさの黒い毛の塊。それは、私が起きたことを察知してモゾモゾと動いて、顔をこちらに向けた。
はたと目が合って、私は目を瞬く。それは大きな黒い狼だった。のそりと立ち上がると威圧感が増して更に大きく感じた。真紅の両眼で私をジッと見て喉を鳴らす。
いったい私の何を観察して納得したのかはわからないけど、狼はくるりと背を向けて、部屋のドアを器用に前足で開けて出て行った。雪に埋もれていた私を発見してくれたのは、あの子だろうか?
赤い目をしていた……あれは……。
「……魔物?」
呟いた声に、自分が寝ている間に人間の姿に戻っていたことを知る。私は慌てて服を着て身支度を整えた。大きな狼が戻って来たのは、最後にブーツを履いている時だった。
「うん? 何、どうしたの?」
私の目の前にタオルの入った籠を置いて、鼻先で洗面所を示す。顔を洗えって?
「ふふっ……わかった。君はお利口さんだな」
タオルを一枚借りて顔を洗い口を濯ぐと、今度はスカートを噛んでグイグイと何処かに引っ張って行こうとする。
「なんだなんだ? 何処へ行くの?」
先程、狼が出て行ったドアの前にお座りして嗄れた声で一声吠えた。私は首を傾げつつ、そのドアを開ける。
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