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とりあえず左右を見渡して、キーパーソンのクラシウスを探す。取り繕うのだとしたら、やはり当事者同士のやり取りが自然であり、例えば「勘違いでしたゴメンなさい」などの一言で解消できる可能性があるからだ。
しかし列席者の中にクラシウスの姿がない。机の下やら茂みの裏、木のウロなどを探してみても同様で、手掛かりの欠片すら見つからなかった。
「おい、クラシウスは!?」
苛立ちを隠さぬ口調に、酷くか細い言葉が続く。土下座せんばかりの声をあげたのはデルニーアだ。
「兄さんは、その、もう仕事は終わったとだけ言って」
「また引き篭もったのか?」
「そのようで。きっと最終ステージまでは出てこないかと」
「クソがッ。勘弁してくれよ!」
これにはリーディスも頭を抱えた。加護を打ち消すような展開、それを元凶のサポートなしに考えねばならないのだから、難問も難問である。
場の空気が暗い。結論を見いだせないままに貴重な時間が刻一刻と過ぎていく。もはや頭をひねるのはリーディスだけではなく、シナリオ担当のメリィ、他にもマリウスやケラリッサなどの主要メンバーも揃って知恵を絞りだそうとした。
そうまでしても出ないものは出ない。ただひたすらに重苦しい会議は続く。そんな最中でのこと。ふとマリウスは別件について思い出し、エルイーザに声をかけた。
「そうだ。貴女ももうじき幕間の出番がありますよ」
「おうよ。わざわざ言われんでも把握してるっつの」
「台本は読んでくれましたか?」
「見てねぇよ。アタシレベルの役者だったら、直前に流し読みするだけで十分なんだよ」
「一応は大事なシーンみたいですが」
エルイーザは首をおもむろに傾け、まなじりを釣り上げた。それだけで他者を威圧できるのだから慣れたものである。
「では期待してますよ、名女優さん」
こうなればマリウスも口を閉じるしかない。ただ諦めと不安の入り混じった溜息を漏らすばかりだ。
それからも特に状況に変化は無かった。名案が浮かばないままに唸るだけのリーディスたち。その傍らで酒盛りを堪能するエルイーザに、霧の主も同然となったリリア。
あるとすれば、この局面だろう。彼らが迎える事になる大事件を未然に防げたとしたら。
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