第19話 バグ大戦1

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「エア・ソード!」  迫り来るのは風魔法だ。鋭利な風刃が仲間達の肌を切り裂き、浅からぬ手傷を負わせる。  突然の襲撃にリーディスは後ろを振り返った。そうして見えた男の姿を、宿敵であるかのように睨みつけた。 「ピュリオス、てめぇ……!」 「ヌーフッフ。敵を挟み撃ちするのは基本中の基本。これぞ知恵者の戦略というものですねーぇ」 「お前、状況が分かってるのか! 今は仲間割れしてるような余裕は無いんだよ!」 「ええ。よぉく存じておりますとも。よぉ〜くね」  ピュリオスが不敵な笑みを浮かべる。すると次の瞬間には、リーディス達全員が触手に囚われてしまった。 「当方は状況分析に自信がありましてねーぇ。どう考えてもアナタ方よりもエルイーザ様の方がウン倍もお強い」 「クソッ。離せ!」 「何て馬鹿力なの……!」  「ゆえに強者の軍門に下りましたんでーぇ、あしからず」  ピュリオスは言葉とともに恭しく頭を下げた。挑発の意味合いが濃い。 「お願いピュリオスさん、アナタも協力して!」 「ルイーズの言う通りよ、エルイーザの暴走を止めるのを手伝って! このままじゃ世界がメチャクチャになっちゃう!」  たまらず声をあげるリリア達。だが必死の悲鳴も全く響きはしなかった。 「確かに仰る通り、世界はとんでもない事になるでしょうねーぇ。あの方がどこまで破壊を考えておられるか、正直測りかねておりますよーぉ」 「だったらオレ達と……!」 「でもねーぇ、別に知ったこっちゃないんですよ。この世がどうなろうとも。私は一般人よりも良い暮らしをして、それなりに威張り散らせるポジションなら、後はなんだって構いませんのでねーぇ」 「ふざけんな! そんな勝手が許されるとでも」 「その勝手を実現できるのが、強者の特権というものですよーぉ。早くご自分の立場をご理解くださいな」  次の瞬間、リーディス達は触手によって高々と持ち上げられ、全員が漆黒の穴へと投げ込まれた。そうして囚人が姿を消すと、辺りは打って変わって静寂に包まれた。美しい湖畔に不似合いな触手も、役目を終えてしまえば大人しいものだ。 「さすがはエルイーザ様。鮮やかなお手並みで」  ピュリオスが荒い鼻息とともに世辞を述べると、水中からエルイーザが姿を見せ、上半身が湖面から現れた。浮かべる表情は固く、戦果を喜んでいる風ではない。  それでも彼女の心の機微を全く読まない男は、なおも一人でまくしたてた。 「ただ、これ程に上首尾で終われたのも、私が絶妙なるタイミングで攻撃を仕掛けたからでしてーぇ。それは作戦の立案をしたワタクシ、ピュリオスの功績というものでしてーぇ」  いささか喋りすぎた。有頂天な彼の口調は、正反対の色を帯びた声で薙ぎ払われる。 「テメェの功績とやらは、この程度が限界か?」  ピュリオスは瞬時に肝を冷やした。そして弾かれた様に空を飛んだ。 「とんでもないです! もっともっと働かせていただきますよーぉ!」  そのまま飛翔した彼は、邪神の塔の方角に消えた。消えゆく背中を見送る事もせず、エルイーザはポツリと独り言を漏らした。 「使えなきゃ、消しちまうだけだ」  それからは彼女の上半身が湖面の下へと吸い込まれていく。遅れて周囲の触手も同じ様にして水中へと消えた。最後に残されたのは、僅かに刻まれた戦の跡だけとなった。
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