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第23話 バグ大戦4
リーディスは今、一条の光すら差さない闇の中に居る。彼はとうに五感を喪失し、目にする物、耳にする音のない世界をただひたすら彷徨(さまよ)っていた。
このまま自分という存在も消えてしまうのかもしれない。いやそもそも、自分は本当に実在する人物なのか。今やそれすらも分からなくなる。
「全部夢だった、とかな……」
呟いた声が耳にうるさい。いつぶりかに聞こえた音は苦痛に塗れていた。やがて自由になる口すらもつぐむ様になり、心までも静謐(せいひつ)に同化させようと心に決めた。
どこまでも広がる無間の闇。脱出法などあるはずもない。エルイーザの思惑通り消えてしまうのは酷く悔しいのだが、自分に一体何が出来るというのか。その悔悟(かいご)の念すらも、やがて黒く塗りつぶされていくだろう。自我が暗闇に飲まれ行くとともに。
(……うん? 何の音だろう)
遠くから何か聞こえた。最初は耳鳴りかとも思ったのだが、そうではない事に気づく。意識を集中させ、そば耳を立てていると、微かな物音は話し声なのだと分かった。より神経を研ぎ澄まし、音の輪郭を掴もうとすると、やがて全てを聞き取る事が出来た。
——ロックされているキャラです。この改変には管理者権限を必要とします。ロックされているキャラです……。
それはシステムメッセージだった。抑揚無く繰り返される定型文だが、リーディスの心に活力を与えるには十分だった。生きようとする気力が聴覚を取り戻し、触覚もそれに伴って体に宿る。そこでようやく地面がある事に気付き、重力が働いている事までを把握した。
歩ける。見えないだけで、地面を踏みしめて行ける。そう思うなり、彼はメッセージの聞こえる方へと進んだ。歩くほどに音は大きくなり、肌に微かな振動すら感じるようになる。それでも構わず進むと、視界は突如として眩い光に包まれた。
「うわっ。何だ!?」
脳が痺れる程の痛みが走る。瞼を閉じ、顔を両手で覆ってもまだ痛む。
耐えた。ただ無言で耐えるしか無かった。そうして眩しさに慣れて痛みが引いた頃だ。恐る恐る眼を開いてみると、今度は全く見知らぬ場所で立ち尽くしていた。
「ここはどこだ?」
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