18人が本棚に入れています
本棚に追加
いや、違う。バグ殺しの剣はマリウスの元へと向かっていたのだ。刀身が壁に触れ、床に落ちるなり、彼の拘束も泥のように解けて消えてしまった。
マリウスは反射的に柄を握りしめ、力強く投げ返した。
「リーディス、今度こそ受け取ってください!」
縦回転しながら剣が宙を舞う。その軌道にリーディスを捉える触手があり、一直線に切り裂いた。バグ特攻の刃は、ただそれだけで多大なダメージを刻みつけた。
「ギャァァ! 痛ぇーーッ!」
エルイーザがもがき苦しむ。その隙にリーディスは剣を手に取り、暴れ続ける身体へ歩み寄った。
「今すぐ楽にしてやるぞ、エルイーザ!」
腰に打ち下ろしの一閃。それだけで触手は本体から分離され、やがてエルイーザもろとも霧散した。世界を揺るがした大事件は、意外にも呆気ない幕切れを迎えたのである。
「皆、勝ったぞ!」
急いで拘束を解いて回るリーディス。全員の縛めを消し去った頃には、祝福しようとする手で揉みくちゃにされてしまった。
「やったわね勇者様! もう感謝してもし足りないわ!」
「メッチャクチャ格好良かったッスよ! この恩は一生忘れないッス!」
喜びが喜びを生み、感涙まで誘うようになる。だが、そこへ水を差したのは王様だ。
「お主ら。気を抜くのはまだ早いぞ」
「えっ。もうバグは倒したじゃねぇか」
「裁判が残っておるだろう、エルイーザの」
王様は移動中にあらゆるログをチェックしていた。そして検討した結果、審議の必要アリと判断したのだ。
「えーっと。この場合の復活って、どうなるんだっけ?」
「エルイーザの初期位置は神殿。このまま塔を降った頃には、あやつも戻っておるだろう」
「はぁ、面倒臭ぇな……」
「お主もじゃぞ、ピュリオス。大人しく裁きを受けよ」
「ヒエッ!」
物陰に潜んでいたピュリオスは、こっそりと窓から逃げ出そうとしていた。しかし、即座にリーディス達によって捕らえられた。特に、卑怯な振る舞いを嫌うソーヤの動きは機敏だった。ピュリオスの襟首をひっつかみ、床に投げ倒す様からは鬼気迫るものを感じさせた。
こうして喜びに浸る間もなく、疲れた体とピュリオスを引きずって塔の階段を降りていった。彼らに安息の時が与えられるのは、もうしばらく先のようである。
最初のコメントを投稿しよう!