第27話 幕間の終焉

1/1
前へ
/50ページ
次へ

第27話 幕間の終焉

 押っ取り刀すらも落としかねない慌て様であったが、どうにか全員が配置に着くことに成功した。  場面は神殿の外周。リリアとピュリオスが公子失踪事件を調査する所から再開された。しかしながら、別マップを活用する事は出来ず、このシーンをもって物語にピリオドを打たねばならない。  よほどの豪腕でなければ不可能なミッションなのだが、果たしてエルイーザの名案とやらは効を奏するのだろうか。 ◆ ◆ ◆ 「うーん。なるほど、なるほど」 「先生、何かわかりますかーぁ?」  メリィが虫眼鏡を手にうろつくと、助手のピュリオスは繰り返し尋ねた。聞こえるのは独り言ばかりで、今のところ要領を得ない時間が続く。  そこへ、茂みを掻き分けて現れた一団がある。女性ばかりが目につく集団だが、男やウサギの姿も見える。 「ねぇルイーズ。本当に道合ってるの?」 「そうねぇ。こっちで間違いないと思うんだけど……」 「おい、ここは神殿だぞ! 逆戻りじゃねぇか!」 「あらまぁ、失敗しちゃったわねぇ」  ルイーズが自分の頭をコツリとた叩く。お茶目さんが誘導したせいで、イサリの町から逆戻りしたというのである。こうして無理のない雰囲気を醸し出しつつも、合流は為された。  それから間髪入れず、真逆の方から現れた者が居た。エルイーザだ。眼を白黒させながら彷徨う様は、手負いの野生生物のようにも見える。 「エルイーザ、どうしてこんな所に!?」 「リーディス!」 「それにその格好はどうしたんだ。物凄く赤いぞ!」  彼女の体は再びカブレル・キノコの粉末を浴びていた。そのため至るところが腫れており、遠目からは返り血のように見えそうだ。 「リーディス、お願い。助けて」  エルイーザは縋るような目線と共に歩み寄った。 「近寄るな。今更オレに何の用があるってんだ」 「私、やっと気付いたの。本当の気持ちに」 「本当の気持ちだって……?」  リーディスは眼を見開いたかと思うと、腹一杯に息を吸い込んだ。そして全身全霊で叫び声をあげた。 「うおぉぉーーッ。オレは真実の愛に気付いたぞーー!」  リーディスはすぐさまケラリッサのもとへ駆け寄ると、彼女の手を両手で包み込んだ。 「お前が好きだケラリッサ!」 「マジッスか? 実はアタシも一目見たときから!」 「よし、結婚しよう!」 「嬉しいッス!」  間髪いれずリリアが叫ぶ。 「結婚するならお祝いしないとね! こんな事もあろうかと料理はもう作ってあるわ!」 「よっしゃ、食おうぜ!」  トントン拍子で会話を重ねたかと思うと、今度は草場の上に料理を並べてしまった。パンに干し肉に煎餅と明らかに残り物なのだが、一応は祝いの席なのだ。  旨いもの食ってリーディスもニッコリ。 「やったやった、アタシの手料理で笑ってくれた!」 「うん。旨いからな」 「その顔が見てみたかったのよ!」  そしてたらふく食べたモチうさぎもニッコリ。 「あらまぁモチーニちゃん。随分と嬉しそうねぇ」 「もっも!」 「そう。そんなに楽しいなら、ここに住んじゃいましょうか」 「もっも!」 「ようやく見つけたわね。私達の安住の地を」  矢継ぎ早にリリアとルイーズの願望が満たされたが、これで終わりではない。まだメリィの分が残されている。  その時だ。やはり茂みから新たな人物が顔を覗かせた。マリウスとミーナである。 「そこの皆さん。この辺で怪しい人物を見かけませんでしたか?」 「凶悪犯ですよ! うちの坊っちゃんが、そりゃもうドエラい目に!」  その登場をキッカケにして、メリィは唸り声をあげた。そしてステッキを振り回したのち、先端をエルイーザの方へと向けた。 「あなたが犯人です!」 「先生。なぜそう思うのですかーぁ?」 「この女性をよく見てください。赤いです。返り血です。つまりは真犯人なのです!」 「なんですってーーぇ?」  ピュリオスの絶叫が響くなり、エルイーザは身を翻して逃走した。最後の悪あがきが始まったのだ。 「逃げました、みんなで捕まえましょう!」  メリィの号令に全員が応じた。そこでシステムがいつものメッセージを宣言する。 ――ロードが完了しました。 ◆ ◆ ◆  短い枠の中、どうにか全ての伏線を回収する事が出来た。リーディスは真実の愛を見つけた。リリア達も料理人としての生きがいを知り、安息の地を得て、狡猾な犯罪者を告発できたのだ。雑である事は百も承知。彼らには最早、じっくりと物語を展開するだけの手段が無いのだから。  この『打ち切りエンド』の様な疾走感は、まだまだ終わらない。次に控えるラストステージにおいても、速度が緩まるどころか更に加速してゆくのである。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加