最終話 2周目の果てに

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「3周目ってどうするんですか?」  いち早く反応したのはリリアだ。 「そりゃ次にやるのは料理よ。テーマは真実の愛。街から街へと移り、大勢の人を笑顔にして、最後は私と勇者様が結ばれるって話!」  そうのたまうリリアだが、背後から尻を蹴られて転ばされた。そうして言葉を継いだのはメリィだ。 「今のは愚にもつかない中身でしたが、テーマだけは良いです。作風はミステリー。世界に渦巻く権謀術数(けんぼうじゅつすう)や難事件に立ち向かううち、ヒロインの私は勇者様と強く結びつき、永遠の愛を誓い合うのです」  そこへ異を唱えたのは赤ら顔のケラリッサだ。 「いやいやいや。いじり過ぎッスよ。ここはシンプルに冒険活劇でいきましょ。魔物に悩まされる人々を救うべく旅立つ勇者と補佐する助手の私。いつしか2人はかけがえの無い関係になり、最終的にはヤリまくりっつう」 「何言ってんのよ。このゲームは全年齢対象なんだからね?」 「リリアさん。冒頭に『お子様お断り』って打ち出しときゃ平気ッスよ」 「まったく、いよいよ本性を現したわね。つうか、そもそもアンタは1回ヒロインやってるでしょ。次は遠慮しなさいよ」 「あんな雑シナリオを勘定されても困るッスよ。ノーカンってやつ」  議論はみるみるうちに白熱し、口調も徐々に荒くなる。まるで言葉による格闘技だ。手足を全く触れ合わせる事無く、殴り合いをしているようなものだった。 「なぁマリウス。これヤバくないか?」  リーディスは不安な顔を隣に向けた。 「ええ。だいぶヤバいです」  顔を俯けたマリウスが眼鏡を直したのだが、その指は微かに震えていた。  混迷を深めるだけの対話が続く。やがて痺れを切らした人物が、荒れに荒れた場を仕切った。それは果たして助け舟なのか。一抹の不安が漂う。 「貴女たち。いい加減にしなさいな」 「ねぇルイーズ。あなただってズルいと思うでしょ? 立て続けにヒロインやるだなんて!」 「落ち着いてちょうだい。皆が納得できるよう案をまとめるから」  一見頼もしく映る光景なのだが、脳裏に嫌な予感が過るのは既視感のせいか。 「じゃあこうしましょ。3周目は料理を使って難事件を解決する傍らで魔物も持ち前の推理力で退治して、動物のホンワカエピソードを交えながらも、最後はヒロインと結ばれる感じにしましょ」 「ヒロイン役は誰が!?」 「成り行きで良いんじゃないの? 一番仲良くなれた子が最終的にヒロイン扱いになる、みたいな」 「妨害工作は?」 「過激じゃなきゃオッケーよ」 「良いわねそれ!」  俄然やる気になる一部のメンバー。早くも屈伸に伸びなどの準備運動を始める始末だ。  もちろんリーディス達は顔面蒼白になった。迷走を止められる者は居ないか、周りを見る。しかしソーヤ親子は議論に興味を無くしてか釣りを再開。王様はピュリオスやデルニーアを前に哲学談義に興じ、エルイーザなどは腹を抱えて転げまわるばかり。孤立無援にも等しい境遇だった。 「そんじゃ次のシナリオを練らないとね」 「3周目もこのメリィにお任せください」 「メリィさんが書くんスか? まさか自分が有利になるように書かないッスよね」 「そんな事言うなら、全編アドリブにしましょうか?」 「上等ッス。むしろ幅が広がるから好都合ってもんスよ」 「んじゃあ台本は登場人物だけ書いといて……」 「それも要らないんじゃない? 出たい人が出れば」 「なるほど。その方が妨害も捗りますしね。リリアにしては名案です」 「一言余計なのよ」  加熱する一方の暴論に、とうとうリーディスが講義しようとした。 「お前ら。ちょっとは冷静に……」  だが、それよりもエルイーザの方が早かった。 「3周目は半裸イケメンも追加してくれ」 「じゃあ、真実の愛に目覚めたら脱ぐって事でどうかしら?」 「十分だ、頼むぜ」  ムチャ要素が更に上乗せされた。これにはもう我慢の限界である。 「お前ら、ちょっとは自重しろよなーーッ!」  リーディスの心の叫びが響き渡る。それは尾を引き、遥か彼方まで届いたとか。  果たして彼らはどのような3周目を迎えたのだろうか。宣言通り、破天荒極まる物語をつむいだのか。それとも妨害工作が過熱するうち、まったく違う展開を迎えたのか。  それを知り得るのは、再起動に至ったプレイヤーだけなのである。 — クソゲーって言うな2 完 —
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