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波に乗れ!
「気合って、気合で何とかなるわけないだろ!」
「でも何もしなかったら、出来ないままで終わっちゃうじゃん」
「だから気合って······もういい、帰るよ」
振り向いて帰ろうとする之朗。それでもスカーレットは、
「逃げるの?」
言葉が彼の心に刺さったのか止まる。
「逃げると、きっと後悔するよ。大丈夫、時間もあるし一緒にがんばろ」
黙って彼女の眼を見つめ続けた。そしてスカーレットは優しく微笑む。
「一緒······わかったよ」
彼は何ごともポジティブな彼女の言葉に掛けてみたくなった。そして何よりも波に乗って立ちたかったのだ······。
ここから二人による波乗りの練習が始まった。早速始めるが当然うまくはいかない。
「ぷはーっ、ダメだ、もう一回!」
「ホント上手くいかないな〜、何でだろう、う〜ん」
照らす夏の太陽の中で周りを見渡せばお母さんと遊んでる子供や泳いる人、ビーチバレーする人達やサーフィンをする人も。そこで、
「シロウ、ちょっと一人でやってて〜」
「え? うん」
彼女は試しにと上手い人達のサーフィンの動きを見てみると、波がやって来て、板にうつ伏せになり海面を手で漕ぐ、立ち上がる。
「え〜、さっぱりわからない」
初心者のスカーレットにはよく分からないが、それでも頑張ってる之朗のためにと思い彼を呼び、
「お願い、あたしにもう一回見せて波乗り」
「え〜、いいけどさ〜」
失敗すると分かっているが一連の動きを何度も観察し、次にうまい人を、そしてまた之朗の動きを見ること一時間。
「もしかして······」
彼女は何かに気づいて彼を呼び出し説明する。
「――そうなのか〜」
「たぶん、だからやってみて」
スカーレットのアドバイス通りにやってみることに。
快晴でも時間は4時を過ぎていた。おじいちゃんもくたびれている様子、もうそろそろ帰りたいはずと彼女に言われたことを思い出しながら神経を集中させサーフボードを持ち波を待つ。
「きた!」
声を出すと波がやって来て、板にうつ伏せになり海面を手で漕ぐ、そして、
「シロウーッ、両手をそろえてーっ!」
見守るスカーレットが声を上げる。
「両手、両手っ!」
その時サーフボードが波を捉え、そのまま胸の少し下にそろえた両手と両足をバランスをとりながら体をお起こし、
彼は、立った。
「やったー!」
「ヘヘっ、うわっ」
気を抜いて落ちたが、
「いてて、やったぜ、スカーレット!」
彼に飛んで近づく彼女は、
「うん、見てたよ!」
「もう一回、もう一回やってくる」
「うん、忘れないうちにね」
ついに波に乗れた之朗はこのあともスカーレットと一緒に練習を続ける······。
練習おわりの夜、ふと彼は、
「スカーレット、もし明日僕が成功するとどうなるの?」
「え? たぶんシロウからは、あたしがみえなくなる、かな」
「ふーん······」
「さびしい?」
「べ、別に、お休み」
寝返る之朗にそっと笑顔を見せるスカーレット。そして明日、いよいよお父さんに見せることに······。
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