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妖精
妖精、それは困っていたり悩んだりしいてる人達にちょっと手を差し伸べる、そんな生き物である。
沢山の子供や大人が集まる常夏の海、河原子。茨城県のその海原に一人の少年は波を待っていた。やがて波がやって来て、板にうつ伏せになり海面を手で漕ぐ、波に乗り立とうとするがすぐ転けてしまう。
「はぁ〜、またダメだ〜」
何度か試しても上手くいかず少年はその場で仰向けになり青空を見上げる。どうすれば上手くいくのかと。
その時、
「ハーイッ」
目の前に何かが現れた。
「うわっ!」
それは自分の顔ほどの大きさで、赤い全身タイツを着た人のような姿でトンボみたいな羽が生えて浮いている。
「······な、なに?」
「見てわからない? あたしは妖精」
「ようせい······って、妖精っ!」
「シーッ」
驚きの声に、まるで一人言を喋っている子のような周りの視線を感じた少年は小声で、
「もしかして、他の人には見えない?」
妖精も小声で、
「そう、声も聞こえてないの。だからあまり大声ださないで、変に思われるから」
とにかく変に思われたくないため人の少ない浅瀬に移動した。
「――それでどうして妖精が僕に?」
「君が、悩んでいるから」
一瞬言葉が詰まる少年。他の人達の賑やかな声が響く。
「べ、別に悩んでなんかないよ!」
本音を見抜かれたからなのか、また海へと向かう。
「あ、ちょっとっ」
行ってしまう彼に妖精も困惑する。そんな彼女が目で追うと、再び波乗りしようとサーフボードに乗るがまた落ちる。これが悩みと感づくのだった。
そしてこの日は一度も立てずに終わってしまう······。
おじいちゃんの家が海から近いのでここで寝泊まりしてる少年は、おじいちゃんと帰ったあとお風呂と夜ご飯をすました。
「またダメだった······」
部屋で一人言を言っていたら、
「少〜年」
また彼の向いてる方に現れた妖精。
「妖精さん、なに、僕なやみないからあっちいってよ」
「だから、あなたが悩んでるからあたしが見えるのよ?」
「そんなの知らないよ」
「あはは······」
後ろ頭を右手でさすりながらどう訊いていいやらと困り果てる妖精は、
「海、好きなのね」
「うん、おと――じゃなかった親父と毎年来てたら、それで楽しくて」
そう言う時の顔が純粋に嬉しそうにみえた。
「へ〜、今日はおじいちゃんと来てたけど、お父さんとも来るのね」
「······お父さんは、いいよ、別に」
「え?」
嬉しそうな顔をしていたはずなのにお父さんと聞いた途端になぜか悲しそうな眼をしていたので、
「ねえ、かき氷とか何かけるの――」
彼女は話題を変える。今日はこれ以上、彼にお父さんの話題は止めて別の話をした······。
色々と話し聞くうちに、
「ねえ、名前なんていうの?」
「しろう、高橋 之朗。キミは?」
「私は、妖精のスカーレット、今日はいっぱい話してくれてありがとう。じゃあまた明日ね」
「え、うん」
こうして之朗の奇妙な一日が終わった······。
別れた妖精のスカーレットは屋根の上で星を観ながら、
「シロウ君かー、どうしてあげたらいいのかな〜」
彼をどうしてあげれば、あの悲しそうな眼を明るく出来るのか考えながら、
「今日は綺麗な夜空ー!」
夜の星達に眼をキラキラさせる······。
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