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「あの...私と付き合ってください!」
「...ごめん」
俺が教室に戻ると、窓際から、友人が声をかけてきた。
「まーたお前告られたの?オレ5回は見たんだけど?お前が告られてるの」
「なんでか知らないけどな 別にモテたいわけじゃないのに...」
「うーわ、そんなこと言ってみてえ!ったく、お前、目の前に年齢=彼女いない歴の奴がいるっていう自覚とかねえの?」
「なんならお前と変わってやりたいもんだよ」
「つかお前、付き合いたいとかいう感情ないの?さっきの娘だって十分かわいいし、オレなら一発OKよ?」
「ないわけじゃないけどさ......」
「んじゃなにが不満よ?胸か?」
「そういうのじゃないだって」
「なによ?お前性欲ないの?」
「いや、あるけどさ それとこれとは別っていうか」
「んー分かんねー 彼女いればとりあえずヤれるなーとか、そういう感じでも、とりあえず付き合って損はなくね?」
「違うんだよ…そういうあれで考えてるわけじゃ」
「相思相愛がいいってことか?」
「いや...そうだとしても......俺は......断る...かな」
「はー...意味分かんねえ......」
「嫌いなんだよ、自分が」
「嫌いって言ったって...それとなんの関係があるっていうんだ?」
「なんていうか...相手にとってその方がいいって思っちゃうんだよ」
「相手にとって?そりゃ、相手がお前のこと好きじゃなくて無理やりってなら分かるけど、相手も好きって思ってくれてれば大丈夫なんじゃねえの?」
「相手は俺の全てを知ってるわけじゃない」
「それはまあそうだけど…それは別に付き合ってからでもいいんじゃねえの?」
「...じゃあお前は、誰かと付き合ったとき、そんなあっさり素を見せるか?」
「あー......まあ確かに」
「結局、よっぽど長い間付き合うか、結婚とか、そういうとこまでいかない限り、お互い素を見せないもんなんだよ …その素を見せたときが怖い」
「普段の感じなら、別にお前のことを性格悪いとか思わないけどなあ」
「...俺の父親、知ってるだろ?」
「最後に会ったの小学生くらいの時だと思うけど、まあ知ってるな」
「どんな感じだと思った?」
「明るくて、いい人だと思ったけど」
「まあ、悪い人じゃないんだけどさ、なんていうか...めんどくさいっていうか、言ってることとかやってることに比べて立派に見えないっていうか......」
「そう思うのは今だけなんじゃね?成長につれてっていうか、もっと冷静に見れるようになるっていうか」
「だったらいいんだけどさ...」
「っていうか、何の話してたっけ?」
「ああ、そうそう そんな親の遺伝子を少なからず受け継いでるって考えたら、俺も将来そうなるんじゃないかって思うようになって...そう思ったら...なんていうか、怖くなった」
「...父親と母親、仲悪いの?」
「別に悪くはないけど...傍から見てると一緒にいる意味が分からない 特に母親にとって、パートナーとしてこの男でなきゃダメだっていう理由がない気がする」
「ふーん...」
「...俺がすごい変なこと言ってるように聞こえるか?」
「いや、お前が正しいと心から思ってるなら別にいいんだよ ...ただ、もう少し視野を広くしたほうがいいんじゃないかって」
「どういうことだ?」
「親が、周りの大人が全てじゃない」
「まあ、そうだけど」
「オレの近所の人に、結構年いった夫婦いるんだけど、その二人すげえ仲いいんだよ 喧嘩してる声とか、一回も聞いたことないし、夏とかに窓開けてると笑い声ばっかり聞こえてくる 世の中には、そういう夫婦だってあるんだよ」
「でもそれ、すごく上手くいってるパターンだろ?」
「そうかもしれない でもさ、出来るんだよ、なれるんだよ 別にお前は性格が悪いわけじゃない──それどころかオレなんかの何倍もいい だから、もうちょっとよく考えてみろ ...お前、無理してるように見えるんだよ」
「無理してる...?そんなわけ...」
「お前の...その義務感はどこから来てるんだ?」
「義務感なんて」
「あるだろ 『俺なんかと付き合ってもいいことなんかないんだから誰とも付き合っちゃいけない』って ...自分でそう言ってたようなもんじゃねえか」
「でもそれは事実で...」
「なにが事実だよ お前自身は、まだ誰とも付き合ったことないんだろ?」
「まあ...」
「じゃあ分かんねえだろ ...逃げるなよ」
「逃げるって...別にそういうわけじゃ...」
「お前が自分の性格だとかを気に入ってねえなら直せばいい
本気でそう思ってるなら、女と付き合うとかそれ以前に直せばいい
でも、ほんとにお前と付き合いたいっていう奴はそういう性格だってのを分かってるはずなんだよ
そこを無理だって言う奴は、結局、お前のことを分かってない奴なんだよ
だから、気にすんな」
「お前は...よくそんな割り切れるなあ」
「割り切れるっていうか、お前より考えてないだけだよ、多分 自分に正直っていうか」
そう言って笑う友人に、俺は、あいまいな返事しか出来ずにいた。
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