第一話 奥様は幽霊

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 元々、女中奉公は、若い女性が嫁入り前に親戚や知人の家に住み込んで家事を教わる、いわば花嫁修業のようなものである。なので、身元がしっかりとした縁故関係の者を雇うのが普通で、結月のように無縁の者を受け入れた野宮家の方が珍しかった。  女中の他にも工場で働く女工の仕事もあるが、結月は個人的な事情で、大勢の人間が集まる場所を避けたかった。  縁故関係が強い田舎では、女中仕事を探すのは難しい。だが、都会では最近、女性の社会進出がさかんで、職業を斡旋(あっせん)するための訓練所や紹介所ができたと野宮家の奥様から聞いた。  身元は確かでなくとも、七年間奉公していた経験がある。奥様からは紹介状も書いてもらった。都会でなら、女中仕事を探せるのではないかと結月は考えていたのだが……。  無理だったらどうしよう。結月は、膝の上にある風呂敷包みを無意識のうちに握りしめる。   「あの、何か問題があるでしょうか?」 「あっ、いえいえ。まったく問題ありませんよ」  職員はにこやかに取り繕った。そして、「ちょっと待ってて下さいね」といったん部屋を出ると、大きな封筒を持って戻ってきた。   「ちょうどいいお宅があるんですよ。郊外にあるので、ここからはちょっと遠いんですけれどね。最近女中が辞めたばかりで、急ぎで探しているそうで。いかがです?」 「は、はいっ、もちろん、ぜひともお願いします!」  封筒から書類を取り出す職員に、結月は一も二もなく頷いた。  おさげ髪に地味な縞模様の着物を着た少女を入口で見送る職員に、声が掛かる。 「先輩、よかったんですか?」 「ん? 何が?」  職員が振り返れば、後輩の若い男性職員が眉を顰めていた。職員は巻き煙草を手にし、マッチで火を点けながら答える。 「紹介状はあったし、見た感じ真面目そうな子だったし。斡旋しても問題は無いだろ」 「そこじゃありませんよ。彼女に薦めた、“あの家”のことです」  先ほど尋ねてきた少女の仕事先を見つける際、この後輩に“あの家”の書類を出してもらっていた。だから気になるのだろう。なおも言い募る後輩の言葉に、職員は煙草に口を付けて火を点した後、紫煙を吐き出した。 「なに? お前、あの子のこと気に入ったの?」 「えっ!? な、何でそうなるんですか!」
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