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 由梨と呑んだ翌日の本日も休み。決して深酒のためではなく、平日に休みを取りやすいので今日は昼から外出をしている。  もちろん誰かと遊んだり趣味に費やすための時間ではない。転職活動の一環としてハローワークに行ってきたのだ。 「あー。疲れた」  二人掛けのソファーには沢山のクッションが並べられている。そのうちの一つを抱えて、まるで我が家のように寛いだ姿勢で溜息を吐き出す。  待ち時間を含めると三時間近い滞在となったハローワークは、駅前から少し離れた立地に加え、同じ区内にも拘らずこの辺りの土地勘がまるでない。  滅多に来ることも無い場所だが今後は通う事になるだろうと、散歩がてらハローワークの裏手に足を延ばし、ふと細長い路地が目に入った。そのまま引き寄せられるようにこのカフェを見付けたのは幸運だったかも知れない。  一見して民家のようなカフェは、二階建てで手前は吹き抜けになっており、奥に屋根裏のような広めのロフトスペースがある。サチは迷わずワクワクしながら階段を昇り二階の席に座り込んだ。 「へぇ、まだランチタイム間に合うんだ。美味しそう」  鳴り始めたお腹をさすって何を頼もうかと思案する。そう云えば昼食を食べ損ねていた事に気が付き、メニューに視線を落とす。  時間的に混雑時からズレているからだろうか、客の数はまばらなので少し不思議な気持ちになる。こんな素敵なカフェなのでもっと人が入っていてもおかしくないが、やはり立地からして隠れ家的なカフェなのだろうか。 「ご注文は、お決まりですか」  その声を聴いて思わずゾクリとする。聞き覚えがあるような夢の中で聴いたような、何とも言い難い妖艶な声だった。  確か、店舗に入ってカウンターの奥に見えたスタッフはスラっとした男性が1人だったように思う。どうやらその彼が注文を取りに来たらしい。  サチはメニューから視線を彼に移して思わず飛び退きそうになる。あまりにも彼の見た目に破壊力があったのだ。  身長は多分一九〇センチ近くありそうだ。  痩せ形だが、均整のとれた身体つきをしていて、明るいアッシュグレーに光る髪はアシンメトリーにカットされ、短く刈られた方の耳には幾つかピアスが見える。  そして何よりも顔だ。日本人にしては彫が深く目鼻立ちがハッキリとしていて、肌の色も少し白いかも知れない。あからさまでなく整えられた眉と、顎の部分だけに生やされた髭が印象的だ。
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