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 何度抱き合っただろう。体位を幾度も変えて、どれくらい求めあっただろうか。激しく乱れてまどろんだ中で、何度も絶頂まで押しやられた。こんなことは初めてだ。  サチは康孝の腕の中でそのことを思い返していた。 「起きた?」  呼吸が変わったことに気が付いたのか、康孝がサチの髪を優しく撫でる。 「ん。起きた」  康孝の胸に痕が残る口付けをして、そのまま顔を埋めて甘えるように抱きしめる腕を強めた。 「またしたくなるから、あんまり可愛いの禁止」  康孝が笑ってサチを抱きしめる。 「今何時だろう」 「ちょっと待ってね」  スマホをサイドテーブルに置いていたらしく、抱きしめる手を離してランプを点けるとその手でスマホを手繰り寄せ、夜中の十二時を過ぎていると教えてくれた。  ―――六時間も……。  はしたないと思う反面、持て余すほどの快楽に溺れた時間を反芻して頭がボーッとする。 「都合も聞かずにこんな時間までごめんね」  明日は仕事なのかと康孝がサチに尋ねる。 「大丈夫。久々に連休だから」 「そうなの?だったら帰さなくても良いのかな」  本気かどうかわからない康孝の声に、何故だか焦燥感が募って泣きそうになる。 「どうかした?」  すぐに異変に気付いて康孝が顔を覗き込む。 「大丈夫」  笑ってみせるけれど、うまく出来ない。 「どうして泣くの」 「今まで好きってどういう感情か分からなかったけど、ああ……これかなって思って」 「ねえ、サチは俺が好き?」 「分からないけど、苦しい」 「どうして?」  康孝はサチの髪を撫でて優しい声で尋ねる。 「このまま途切れたら、心が砕けそう」 「どうして途切れると思うの」 「分からないけど、そんな気がして」 「俺はサチが好きだよ。することが先になったけど」  康孝は優しくサチを抱きしめると、髪に唇を押し当てて口づけをした。 「ねえ、サチは俺をどう思う?」 「……好きだと思う」 「参ったな」  困ったように笑うと、悪戯にサチの手を取り、自身の熱くなった芯にその手を添わせる。 「一言でこんなに昂った」 「なにそれ」  二人で声を出して笑うと、康孝はまたサチの髪を優しく撫で、改まったように呟く。 「サチ。俺が嫌いじゃないなら傍にいて」 「また言い方が遠回しだね」 「俺も怖い。初めて人を好きになったから。でも彼女は俺の父の方が好きみたい」 「ははは、何それ」  サチはお腹を抱えて笑う。 「着物が可愛いねって言われて、跳ね上がるくらい喜んでた」 「確かに」 「俺は嫉妬深いみたい。自分でもびっくり」 「別の種類の好きだよ?」 「やっぱり好きなんだ」  そう言うと急に腕を離し、体勢を変えて乳房を乱暴に揉みしだくと、片方の手を秘所に伸ばして蜜が溢れるように蕾を刺激する。 「あぁっ、ん……」  弓形に背を仰け反らせてサチが嬌声をあげる。 「早いね。すぐ濡れる」  乳房の頂を指に挟んで捻るように弄ると、ここも好きだねと口に含んで舌先を這わせる。 「康孝さんがソコ好きなんでしょ」  胸に顔を埋める康孝の頭を優しく撫でて笑った。  なし崩しにもう一度抱かれると、今日何度目か分からない絶頂を与えられてサチはセックスが気持ちの良い行為なのだと身体に覚えさせられた。 「淡泊なハズなんだけど、まさか俺にこんなにも性欲があるとは思わなかった」  まだ息の乱れるサチをそっと抱きしめると、康孝は不思議そうに呟く。 「身体が保たないよ」  サチも同じようなことを考えていたが、それは口に出さずに腰に腕をまわす。 「責任とってね」  康孝が冗談か本気か分からないトーンでさらりと呟く。 「普通逆なんじゃない?」  他愛無い会話で笑い合うと、康孝は飲み物を取ってくるとベットを離れた。  もう二時くらいになっただろうか。時計がない部屋なので時間の感覚がおかしい。  そういえば確か根付けをサイドテーブルに置いたことを思い出し、ランプの裏手に手を伸ばす。 「どうかした?」  グラスを二つ持って部屋に戻ってきた康孝が、サイドテーブルに手を伸ばすサチに声を掛ける。 「根付け……時計をここに置かせて貰ってたの。今何時なんだから分からないから気になって」  返事を聞いた康孝は部屋の電気を点け、サイドテーブル側に回り込んでベッドに腰掛ける。  グラスを一つサチに渡すと、サイドテーブルにあった根付けを手に取り、これが着物用の時計なの?と振り返ってサチを見た。 「そう。私は出来るだけ装飾品はつけないタイプだから」 「どうやって携帯してるの?」 「帯に挟む感じ」 「なるほど」  二時前だね。そう言って持ってきたグラスに入った炭酸水を一気に飲み干してサイドテーブルに置くと、康孝は甘えるようにベッドに入ってきた。 「ちょっと!溢れちゃうって」 「飲ませてあげようか?」 「……自分で飲めるからいい」  康孝の言いたい意味を察して、先んじてそれを制する。  シュワシュワと喉に心地好く炭酸水が流れ込む。その様子を見て康孝はまた妖艶な表情を浮かべていたが、気付かないフリで喉を潤し続けた。 「女性の喉が動くのって扇情的だな」 「なんでもその方向に持っていくよね」 「自分でも変な感じだよ。サチは何をしてても扇情的」 「煽ってないから」  掛け布団で胸元を覆って壁にもたれるサチは、康孝の異常なまでの性への固執に笑うしかなかった。  一方の康孝は、本当に自分でもこの変化には驚いてると戸惑った顔をした。 「マナー違反は承知で言うけど、俺はずっと淡泊だと思ってたんだよね」 「マナー違反は承知で言うけど、セックスがこんなに気持ちが良いと思ったことなかった」  サチが言い返すと、複雑だけど褒め言葉だと思っとくと苦笑いする。 「シャワー浴びてくる?」 「そうだね」 「じゃあ時短のために二人で浴びよう」 「扇情的とか言ってお触り禁止だからね」 「おや残念」  下らないやり取りをしながらバスルームに向かうと、熱いシャワーで汗を流した。  康孝が先に出て用意してくれたタオルを使わせて貰う。 「下着は今から洗濯するけど、着物の下に着てたやつは洗えるの?」 「洗えるけど、万が一傷むと嫌だから下着だけで大丈夫」  色気もへったくれもない和装用の地味な下着を見られたのはかなり恥ずかしい。  ちょっと待っててねと言い置いて、康孝はバスルームを後にする。  サチは大判のバスタオルを身体に巻き付けた姿で、その間に有名なホテルのアメニティらしい歯ブラシを使って歯を磨く。  バスルームに戻ってきた康孝はVネックのTシャツとハーフパンツ姿で現れた。手にはサチの着替え用にと、自分のTシャツとパーカー、未開封のボクサーパンツを持ってきた。  確かに下着もつけていない状況は避けたかったので、有り難く使わせて貰う事にした。 「寒かったらズボンも貸すから言ってね」  そう言うと隣で康孝が歯を磨き始めたので、サチはバスタオルで身体を隠したまま器用に着替えを済ませる。そのおかげで変に刺激せずに済んだ。
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