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「あ、スーパー寄るぞ」
「おつかい頼まれた?」
「お前が来るから酒買って来いって。あと自分用のノンアルコール」
人を使うのが上手いんだよと苦笑いすると、見覚えのある大型スーパーの駐車場で車が停まった。
「食べるもんは由梨が用意してるから、本当酒だけ。お前ビール?それとも焼酎とかワインとか色々買うか」
「残っても健次郎が飲めるやつにしといたほうが無難じゃない?」
「じゃあビールとワインにするか。カートどこだ?ちょっとお前先に売り場行ってて」
「りょーかい」
健次郎とサチは二手に別れると、お互い目当てのものを探す。
サチは食料品の方の入り口から入ったので、リカーコーナーの看板を探しながら奥へと進む。様々なコーナーを抜けて更に奥へ進み、本当に店の奥の方にリカーコーナーを見つけた。
「お?ワイン安いじゃん。そういえば康孝さんワイン飲むのかな」
何気なく康孝の名前を口にして、サチは自分でも驚いた。
ごまかすように小さく首を振ると、サチはワインの奥にビールコーナーを見つけた。
すぐさまスマホをタップして健次郎に電話してみる。
「どの辺?」
『今生鮮食品?のとこ』
「さては普段買いにきてないな?」
『付き添うけどコーナーまで覚えてねえよ。お前どこにいんの?』
「生鮮食品のとこからずっと奥。入り口から見て右の端っこ」
『おっけー』
向かうわと残して電話は切れる。
「どの銘柄が美味しいんだろ」
由梨用のノンアルコールビールの棚に目を向ける。サチはノンアルコールを飲まないので味の違いは分からない。
由梨も好きそうな、パッケージデザインが可愛らしい海外の低アルコール飲料に惹かれたが、妊婦に飲ませるわけにはいかないので見るだけにする。
「本当に端っこだな」
ガラガラとカートを押しながら健次郎が現れた。
「由梨って普段からノンアル飲んでるの?」
「いや、飲まない」
今日だけだろ。と健次郎が言う。
「なら、無難にいつも飲んでるメーカーのノンアルコールビールにした方が味にクセがないかな」
「だな。味分からんし」
「ノンアルは?一箱買うの?」
「いや、一パックで充分じゃね」
飲んで美味かったら近所のコンビニで買えばいいからと、六缶入りのものをカートに入れる。
「お前相変わらずなんでも飲むんだろ?」
健次郎がサチに声をかけるので、サチは買う銘柄は任せると言った。
「箱で買っていいって言われてるから、ケースで買うわ。それ取って」
言われた銘柄のケースを取ってカートに入れる。
「あとは適当にワインでも買うか」
「一晩でそんな飲まなくない?」
「残ったらお前の彼氏に持って帰って貰え」
健次郎の何気ない言葉に、もしかしてそれを見越して沢山買い込んでいるのでは?とサチは気遣いに遠慮なく甘えさせてもらう事にする。
「じゃあ、このチリワイン特売みたいだし、三本!」
「ヒトの財布だと思ったら遠慮ねえな」
笑いながらも買うなとは言わず、サチからボトルを受け取るとカートに入れた。
「あ、ちびちゃんたちのジュースは?」
サチはソフトドリンクの方を見る。
「なんも言われてないから家にあるんじゃね」
「そこは電話して確認しようよ。子供もパーティー気分は大事だよ」
由梨に電話で確認するよう促すと、健次郎をその場に残してソフトドリンクを色々と見て回る。百パーセントのフレッシュジュースもあるし、幼児用の果汁飲料もある。
子供だったら乳酸菌飲料も好きかもしれない。
「おい鞍馬、お前チョロチョロすんな」
「由梨なんて?」
「なんか好きなのあるらしくて、お前に代われって」
スマホを受け取ると、サチは由梨にちびちゃんたちのジュースのリクエストを確認する。
「だよね、それは外せないと思った。多めに買っとくの?」
『今日はパーティーだって言ったから、どうしても飲みたいってうるさくて』
数は必要ないから大きめのボトルで充分だよと、由梨がちびちゃんたちの相手をしながら答えているのがスマホ越しに伝わってくる。
「分かった。またあとでね」
通話は切らずに健次郎に返すと、健次郎は二言三言やり取りを済ませて電話を切った。
「飲み物どれか分かったか?」
「うん。このオレンジジュースとあっちの乳酸菌飲料」
可愛いキャラクターの描かれたジュースと、水で割ってある乳酸菌飲料のボトルをカートに入れる。
「で?由梨なんて?」
「タマゴだけ追加って」
「あ、得意のタマポテサラダがある予感」
「揚げ物も作ってたし、陽太たちのお子様ランチも作ってたからな」
由梨がちびちゃんたちにパーティーと言ったなら、お子様ランチを作らざるを得ないのも分かる。
カートを押して移動しながら店内を探してタマゴを見つけると、会計のためにレジに並ぶ。
「お前荷造りの台のほうに行っといて」
「はいよ」
レジの脇を通り抜けて会計が終わるのを待つと、カートを押したまま健次郎が駐車場行こうぜと声をかけてきた。
「ゴチになります」
「おう。ま、なんだかんだ久々だからな。外で飲むこと考えたら安いもんだろ」
「外飲みとか由梨以外と行くことなくなったもんな……」
たまに店舗スタッフと飲み会があるが、サチは自分がいると楽しめないだろうからと、出来るだけ欠席している。その話を健次郎にすると、確かになと返ってくる。
「でも俺らんとき須賀さんとか的場さんと飲んでたじゃん。嫌なら声も掛けずにシレッと集まると思うから気にしすぎじゃね」
「まあね、でも世代も違うし気を遣わせるのはね」
「確かに昔はサークルみたいな感じだったもんな」
車を停めたスペースに辿り着くと、トランクを開けて買った物を積み込み、空になったカートを戻しに健次郎が席を外す。
平日の夕方ということもあり、駐車場にはそれなりに車が停まっている。
「いつもならランチが終わってディナーまでのアイドルタイムだな」
腕時計で時間を確認するとサチは店から連絡が来ないかと、どこかでヒヤヒヤしていた。久しぶりの三連休だ。なにも問題なく終わって欲しい。
「あーこういうのもストレスだわ」
頭を抱えて溜め息を吐き出すと、戻ってきた健次郎が怪訝な顔をする。
「なんだよ、店から呼び出しか?」
「そうなったらヤダなってこと」
違う違うと顔の前で手を振ると、サチは助手席側に回り込んだ。
健次郎がロックを外して車に乗り込むのを確認すると、サチも車に乗り込んだ。
五分ほど走ると、家に到着する。
「先降りて由梨に声掛けてくれるか」
「はいよ」
インターホンを鳴らすと、すぐに由梨が、顔を出した。
「待ってたよ。入って〜」
「ありがとう。あ、健次郎ガレージからリビングに荷物あげるつもりかも」
「分かった」
由梨はサチを家を迎え入れると、先にリビングに戻って行った。
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