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紗季はサチの後ろを指差して、質問してくる。
「こんばんは。いつもお世話になってます」
甘く艶やかな声で紗季に挨拶をすると、康孝が自然にサチの腰を抱き寄せる。
「は……あ!いえ!こちらがお世話になってます!恐縮です!」
紗季は焦っているのか、康孝とサチを交互に見てアワアワしている。
「ちょっと、紗季ちゃんがびっくりしてるでしょ」
「ごめんごめん」
康孝は笑うと、時間は大丈夫?と紗季に声を掛ける。
「時間……。へ?あっ、電車!」
急いで走り出そうとした紗季の腕を取ると、サチはお詫びに送るわと、康孝の車に乗り込むように後部座席のドアを開けた。
「いやっ、でも、あの……」
「ごめんね。つい話し掛けた私のせいだから送らせて」
私の運転じゃないけどねと笑って、紗季を後部座席に座らせる。
「紗季ちゃん、シートベルト締めてね」
「あ、はいっ」
「紗季ちゃんは竪川駅の方だったよね?」
「そうです。なんだかすみません……」
「良いの良いの、気にしないで。半分以上はおふざけで驚かせた彼のせいだしね」
サチと康孝が車に乗り込みエンジンを掛ける。自宅まで送るから駅の近くからは案内してねと紗季に声を掛けると、大丈夫です!と断る紗季の声が車内に響く。
「ダメよ。慣れた道でもこんな遅い時間は危ないから。あ、寄り道したかったらコンビニでもどこでも寄るから安心してね」
サチが喋ってる間に車はスムーズに駐車場を出た。
「大山紗季ちゃん。入って半年近くなるんだよ。凄い可愛いでしょ」
由梨に似てない?とサチが康孝に声を掛ける。ああ、確かにと康孝は優しい笑顔を浮かべている。
紗季はこの世にはやはり美男美女のカップルもいるのだと心の中で呟いて、前方の二人を観察していた。
紗季にとって、仕事をバリバリこなす店長のサチは憧れの人だ。仕事に生きる女性なのかと思いきや、想像以上に美形の恋人までいるとは驚いた。
「……よね、紗季ちゃん」
「え?あ、何ですか?」
「この前飲み会で酔いすぎたって聞いたよ」
「楽しかったですよ。工藤さんが端役だけど映画に出るらしくて盛り上がったんです。店長もたまには顔出してください」
紗季が不満げにそう言うと、康孝がそうなの、とサチに声を掛ける。
「私がいて気を遣わせるのがやなの」
「そんなことないです。今度いきましょう。店長の彼氏さんの話も聞きたいです!」
ニコニコ笑うと紗季はシートの上でピョンと跳ねた。
結局、紗季は最寄り駅から道案内をして自宅前まで二人に送ってもらうことになった。
そして降り際にこれはお土産と口止め料ねと、悪戯っぽく笑う康孝からケーキの入った箱を受け取った。
「いただけません!お二人で召し上がる分でしょう?」
「良いの良いの、気にしないで。でも送迎と彼の話は内緒にしといてね」
サチが笑って唇に指を当ててそう言うので、紗季は分かりましたと答える。
「わ、私!口は固いので、大好きな店長がスパダリ系の彼氏さんとラブラブだとか言いませんからっ!」
「ちょ、紗季ちゃん」
「あ、いや本当に口は固いので。ケーキ有り難くいただきます」
ありがとうございますと頭を下げてマンションに飛び込んでいく紗季を見送ると、康孝は笑ってあの子完全に小動物だねとサチの顔を見る。
「ところでスパダリって何」
「分からないけど褒め言葉なんじゃない?」
「ラブラブだってさ」
「初々しさが見受けられなかったのかな」
「そういう意味では付き合いたてだからラブラブかもね」
笑ってサチに返すと、康孝は車を出した。
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