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 家までの帰り道でサチは康孝に田端との面談内容をあらかた話した。親のことが絡むと厄介なので寿退社になると言われたことも含めてだ。 「なんだか俺が辞めさせるみたいで忍びないな」 「ごめんね。こんな形で巻き込んで」 「俺は良いんだよ。でもやっぱり辞めるとなると寂しいんじゃないの?」 「どうかな。恋しくなったらパートで雇ってもらうよ」  サチの笑顔を見て康孝は安心したのか、ラスボスは父だねと冗談まじりに言った。 「ここに来て反対されたらどうしよう」 「いや、そんな権利もないし大丈夫だよ」  康孝は笑ってサチの頭を撫でると、月が綺麗だから見てごらんと窓を開ける。 「寒かったら言ってね」 「うわー。眩しい!凄くキレイ」 「サチの方がキレイだけどね」  康孝の言葉はスルーして大きく輝く月を眺めて夜風を浴びた。 「俺の彼女は冷たいな」 「耐性ができたので」 「なんだそれ」  二人で笑うとしばらくは夜のドライブを楽しんだ。  見慣れたマンションを通り過ぎて裏手のコインパーキングに車を停める。 「サチのマンションって、駐車場に空きはないの?」 「どうだろう。調べといた方が良い?」 「住宅街だから埋まることはないだろうけど、ここに停められないともう少し離れたところだよね。毎回の課金を考えるとマンションで空きがあれば借りた方が利便性も上がるしね」 「分かった。確認しとく」  そのまま手を繋いでマンションのエントランスを抜ける。今はたいした荷物もないので階段で二階に上がる。時間は深夜なので、声が響かないよう会話はせずに家の鍵を開ける。 「どうぞ。先に入って」 「はいはい」  康孝は先に靴を脱いで寝室にビジネスバッグを置くと、洗面所に向かう。  サチは家の鍵を閉め、内側からロックをかけると玄関の電気を消してダイニングとリビングの電気を点ける。康孝と入れ替わりで洗面所に向かうと手を洗った。 「康孝さん、飲む?」  冷蔵庫を開けてビールを取り出すと、サチは出しっ放しになっていたグラスを回収して軽く濯ぎ洗いを済ませる。 「おつまみは?」 「お菓子でいいなら買ってあるよ」 「なら、それでいただこうか」  サチが適当に盛り付けたお菓子を持っていくと、康孝はちょうどビールをグラスに注いでいた。 「いやいや、本当に怒涛の三日目。これ以上何も起こらないことを祈って乾杯」 「あはは、乾杯」  シュワシュワと喉を心地好く刺激するビールは非常に美味しく、サチは一気にビールを煽る。 「凄い勢いだね」 「一気に色々あり過ぎた」 「確かに」  康孝は空になったサチのグラスにビールを注ぐともっと飲むかと冷蔵庫を指差す。 「康孝さんは飲まないの?」 「俺はビールよりサチが欲しいんだけど」 「ぐっ!」  飲んでいたビールで咽せると、サチは慌ててティッシュでテーブルを拭く。 「今日は色んなサチを見たからかな。むちゃくちゃに抱きたい」 「私はもう少し、飲みたい……です」 「そう?じゃあ俺は先にシャワー借りて良いかな」 「ああ、どうぞ」  タオル出すね。そう言ってサチは立ち上がると、洗面所のチェストからタオルを出す。康孝は寝室に向かい、コンビニで買っていた替えの下着を持ってくる。 「私ので良ければ、ジャージ出そうか?」 「うん。借りようかな」  そう言うと康孝はすぐに服を脱ぎ始める。 「下着は洗うから洗濯機に入れておいて。ニットも洗うなら、このネットに入れてね。一緒に洗うから」  サチはその場を離れると、寝室に向かい大きめのジャージとハーフパンツを用意して洗面所に戻る。康孝はもう浴室に入ってシャワーを浴びているので、替えの下着のそばに着替えも置いた。  冷蔵庫からビールを取り出すと、リビングに戻ってソファーに腰掛ける。  スマホを充電してメッセージアプリを確認すると売上報告が入っていた。 「寿退社……ね」  結局転職すら決まらなかったのだ。自己都合の退職なのだが、康孝の両親や自分の両親とも挨拶を済ませたことで、たった三日間の恋人との結婚話が現実味を帯びて来た。  お菓子を頬張りながら、サチはテレビをつけてボタンを押す。この時間は大抵ニュース番組が多い。  内容を流し見ながら一人で飲むビールもなかなかに美味しい。  浴室からシャワーの音が聞こえることを不思議に思いながらも、サチはお菓子をつまみながらビールを飲んだ。  程なくして康孝がシャワーから出てきたころには、サチはビールを二缶空けていた。 「結構飲んだね」  タオルドライで髪を拭きながら、サチの隣に座った康孝はハーフパンツの方を着たらしい。 「あ、やっぱり出しといて正解だったね」 「なにが?」 「ズボン。長いの苦手なの?」 「うん。これメンズ?」 「そう。私これでも一七五センチあるからね。レディースだと丈が足りなかったりするから」 「なるほど」  康孝は納得したように頷くと、タオルを首に掛けたままグラスにビールを注いで喉を鳴らすように一気に飲んだ。 「男の人も喉が動いてるのって扇情的だね」 「誘ってる?」 「どうかな」  サチは笑って濁すと、しばらくは康孝の隣でビールを飲んだりお菓子を食べて過ごす。 「さて、私もシャワー浴びてこようかな」 「うん。待ってるよ」  意味深に康孝が甘い声を出すので、サチは風呂は覗かないでよと釘を刺してリビングを出る。寝室で下着や着替えを取り出すと、洗面所を閉めて服を脱ぎ、下着類はネットに入れて洗濯機に脱いだ服を入れる。  浴室に入ると康孝がシャワーを浴びた名残か、いつもとは違って空気があたたかい。そこにまた違和感のような不思議な感覚を覚えると、サチは熱いシャワーを浴びた。  髪を洗い、トリートメントを済ませて髪を濯ぐと、洗顔クリームで顔を洗う。  身体を洗おうとしてボディタオルに手を伸ばすと、乾いているはずのそれが湿っている。康孝が使ったのだろう。そこでもまた違和感を覚えつつサチは身体を洗うと熱いシャワーで泡を洗い流した。  浴室から出ると、タオルで髪や身体を拭き、持ってきた着替えに袖を通すと、ドライヤーで髪を乾かして歯を磨く。 「俺も歯を磨く」  康孝は自分の歯ブラシを取り出すと水で濡らしてから軽く歯を磨き、一度口を濯ぐと、歯磨き粉をつけて改めて歯を磨き始めた。  康孝の家と違ってサチの家の洗面所は狭い。そこでお互いが歯を磨く姿を鏡越しに見ながら笑って歯磨きを済ませた。 「サチ、まだ飲む?」 「ううん。もういいよ」 「缶は捨て場所が分からないから流しに置いてあるよ。お菓子はラップして冷蔵庫に入れといた」 「ありがと」  サチは康孝を抱き寄せると唇をきつく吸い上げてキスをした。 「積極的だね」 「だったら困る?」  笑ってリビングとダイニングの電気を消すと、寝室の電気をつけて康孝の腰に手を回してベットに座る。 「あ、やっぱり軋むね」  サチは突然思い出したようにお腹を抱えて笑う。 「なら、マットレスを床に置けば良くない?サチは綺麗好きだし、床に置いても平気でしょ」 「それは構わないけど、マットレスが滑らない?」 「大丈夫でしょ」  康孝はすっかりその気でマットレスの足元を持ち上げると、サチはそっちを待ってと手伝うように指示を出してくる。 「これで軋まない」 「ははは、そうだね」  恐れ入ったとサチは笑って寝室の照明を落とし、間接照明に切り替えると、スマホをスピーカーに繋いで音楽を流す。 「なにこれ。雰囲気が違うね」 「遮光カーテンじゃないから、あんまり明るいと中の様子が分っちゃうし、防音もそこまでしっかりしてないと思うから」  サイドランプだけにする?と康孝に尋ねるが、返事の代わりに唇を奪われる。  Tシャツの中にゆっくりと、康孝の大きな掌が侵入してくる。お腹の辺りを撫でられるだけで、サチは自分の蜜口がじわりと濡れるのを感じた。
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