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頭痛が酷くなってきたので鎮痛剤を飲み、寝室からスマホと本を持ってリビングのソファーに腰を下ろす。
スマホを改めて見ると、メッセージが数件来ている。その内大半は真知子の件を知ったスタッフからのお見舞いだ。急遽一週間休むことになったのが、親の看病と思われているのだろう。珍しいことに的場や須賀からもメッセージは来ていた。
あとは紗季からケーキが美味しかったと、康孝にも改めてお礼を伝えて欲しいというメッセージがきていた。
律儀に一人一人に返信していると、あっという間に四十分経ってしまった。
これ以上メッセージが溜まらないように、念のため店舗の連絡用ページにも私用で迷惑をかけますと、経緯を書いて一週間休む旨を残した。もちろん親が事故で入院したという表向きの内容で、だ。
全てのメッセージを打ち込むと、置きっ放しになっていたグラスを洗い、冷蔵庫からお茶を取り出してリビングに戻る。
「あ、そうか。粗大ゴミの件調べないと」
区役所の番号をネットで調べて、問い合わせのために電話をしようとしたタイミングで康孝から着信が入った。
「はいもしもし」
『もしもし今大丈夫?』
サチは怠い腰回りが休まるようにソファーに寝転ぶと、どうかしたのと康孝に尋ねる。
『ベッド引き取ってくれるらしいよ』
「え、十四年も使い込んだやつだよ」
『なんか工房でリメイクして途上国に寄付する事業もやってるらしいんだ』
「へぇー」
そんなこともあるのかとサチは感嘆の声を漏らす。
『でね、最速で今日ベッド届けてもらえるらしいんだけど、どうする?』
「寝室の間取りちゃんと分かってる?」
『そこまで世間知らずじゃないよ』
他の家具のことも計算に入れてるよと康孝の苦笑いする顔が浮かぶ。
「分かった。マットレスは処分しないといけないだろうから、区役所に問い合わせるね」
『じゃあ今日で手配するね』
「よろしくお願いします」
『すぐ帰るね』
康孝との電話を終えると、すぐさま区役所の番号を貼りつけて通話をタップする。
案内はとても丁寧だった。サチのマットレスなら二千円で回収してくれるらしく、たまたま明日が回収日だと言われた。
コンビニで専用シートを買って名前を書いて収集所に置くだけで問題ないとのこと。
間に合うか微妙だが、サチは康孝にメッセージを送り、コンビニで粗大ゴミ用の専用のシートを買ってきて欲しい旨を伝える。
「あぁ、なんでこうバタバタが続くかな」
天井を見上げて頭を抱えると、サチは大きく溜め息を吐き出した。
リビングのレースのカーテンが外からの涼やかな風で揺れている。洗濯物から香る柔軟剤の匂いに、サチは日常を取り戻した気分になった。
「あ、駐車場の空きも確認しないといけなかった。でも康孝さんがいないと相場とか分かんないし。どうしようかな」
身体を起こしてソファーにもたれるように座り直すと、スマホを手に取り管理会社の番号を表示させて電話をすべきか思案する。
それを遮るようにインターホンが鳴った。
サチは怠い身体を引き摺ってインターホンのモニターを覗く。元気に手を振る康孝が映っている。
「鍵渡しとけばよかったかな」
玄関の鍵を開けると、康孝は大きなトランクケースを引いている。
「どうしたのその荷物」
「着替えとか?あと資料が結構かさばった」
鍵を預かれば良かったねと謝る康孝に、それは良いから、トランクケースはとりあえず玄関に置いたままにしてと、サチは雑巾を取りに洗面所に向かう。
慌てて靴を脱ぐ康孝が俺がやるからサチは座っててと雑巾を受け取り、トランクケースの車輪部分を拭いてから室内に上げる。
「クローゼットに入るかな?」
「ん。掃除機とか避ければ入るスペースはできると思う」
立ち上がろうとするサチを手で制すと、後でするから大丈夫と言って、玄関先に置いたままリビングにやってくる。
「ごめんね。体調悪いのに俺無神経だよね」
「だから毎月の恒例行事だから体調不良に入らないってば」
サチは笑うとメッセージは読んだのかどうか康孝に尋ねる。
「これでしょ」
ジャケットのポケットから粗大ゴミ用の専用シートを取り出した。
「ゴミ出しも俺がするから。エントランスの脇の扉だよね?」
「あーそれ凄い助かる。ありがと」
「それくらい当たり前だから」
ベッドは夕方六時ごろに届くと言って、それまで使えるからゆっくり眠るようにサチの身体を気遣った。
「じゃあお言葉に甘えて横になるね」
力なく康孝に笑って見せると、サチは立ち上がるとベッドに向かった。
頭痛が治まっているので薬は効いているようだが、特有の倦怠感は取れない。崩れるようにベッドに身を沈めると、サチは意識を手放した。
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