前編

4/8
前へ
/10ページ
次へ
「!……へへ、お兄ちゃん優しいんだねっ。」 「ふふっ、そんな事ないよ。 こんなの、当たり前の事だよ。」 そうだ、こんなの当たり前のことだ。 男の子の柔らかい笑顔に僕も思わず顔が緩んでいた。 やっぱり小さい子は可愛いな。 弟がいたらこんな感じなのかな。 そんなことをふと思った。 「へへ、本当のお兄ちゃんがいたら、こんな風なんだろうな。」 ニヘッ ん"んっ 男の子よ突然の不意打ちはあかん。 可愛さで心臓ぶち抜かれる。 「ん"んッ、ははっ。それはどうかな。 でも、ちょうど僕も弟がいたらこんな感じなのかなって思ってたよ。」 「!ボク、お兄ちゃんの弟になりたい!」 グフッ! あ、ダメ。 この子可愛すぎる。 めっちゃ弟にしたい。 でもアカンアカン。 YesショタNoタッチだ。 それにこの子には、ちゃんと家族がいるんだ。 男の子も、僕も、それを崩しちゃいけない。 「ん"んんんぅぅ……うん、そうだね。 僕もそう思うよ。」 「じゃあ!!」 「でも、本当のお兄ちゃんにはなれないかな。」 「…え?」 僕の言葉に凄く嬉しそうにした男の子。 でも、僕がまた言葉を連ねると、男の子は何でって顔をした。 僕の家族…両親は実は今上手くいってないんだ。 僕が、自分はゲイだと伝えたあの日から。 母は泣いた。 父は怒り、僕を殴った。 母も父も、ゲイということをひたすら罵って、認めてくれることは無かった。 その日から、母と父の僕に対して凄く変わった。 母は凄くよそよそしくなって、あまり喋らなくなった。 父は、僕をひたすら無視した。 たった一つのカミングアウトで、僕の家族との関係は粉々に砕け散ったのだ。 そんなところに、男の子は僕の弟にはなれないんだ。 ……ググッ 「君にはキミの家庭がある。 僕の家庭は今複雑だから、そんなところに僕がキミのお兄ちゃんにはなれないよ。 でもね、こうやって会って話すことは出来るよ。 それじゃ、ダメかな。」 「……分かったよ、お兄ちゃん。 無理言って、ごめんね?」 しょんぼりとする男の子に、心が痛くなるけど、僕は笑みを崩さなかった。 「ううん、全然だよ。 謝るのはこっちの方だ。」 そう言って僕は男の子の頭を撫でた。 ザザァァァーー 相変わらず雨は振り続けていた。 終わりのない雨に、ふと疑問がよぎった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加