前編

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「ねぇ、キミ傘とか持ってないよね?」 「え?うん、持ってないよ。 傘さずに来ちゃった!」 そう、この子はずぶ濡れていた。 だから傘を持っていないってことなるんだ。 それを分かっていたけどあえて聞くと、 無邪気に応える男の子にガクッと、項垂れそうになった。 やっぱりそうだよなぁ。 ずぶ濡れでいたんだからないに決まってるよなァ。 うーん…あ、そうだ。 「来ちゃったって…うん、わかった。 キミ、良かったら僕の傘使って。」 「い、いいの?お兄ちゃん。 でも、傘ないとお兄ちゃんがずぶ濡れになって風邪ひいちゃうよ。」 「ははっ、それを君が言うんだね。 大丈夫。 僕はこう見えて昔と比べて身体は丈夫になったんだ。 だから少しの間濡れてても僕は大丈夫さ。 ね?良かったら僕の傘、受け取ってよ。」 俺がそう言うと、男の子は驚き、ずぶ濡れでケロッとしていた男の子にさっき僕が 言っていた事を僕に言ったことに対して、思わず笑ってしまった。 そして俺は諭すように優しくまた言葉を並べたんだ。 「…ほんと?」 「うん、本当だよ。」 「……ありがとう、お兄ちゃん。 お兄ちゃんがそう言うなら、この傘使うよ。」 「うん、良い子だ。」 ヨシヨシ 傘を受け取ってくれた男の子に僕はまた頭を撫でた。 そうすると、男の子は嬉しそうに目を細め、へへ、と笑った。 本当に、可愛い男の子。 本当に、自分の弟だったらいいのに。 ブー!ブー! 「!!あ、えと……ヤバっ! もうこんな時間なの帰らないと!」 雰囲気をぶち壊すかのように突然鳴り響く携帯の音に驚き、携帯を見ると通知が来ていた。 そしてふと時刻を見ると、時計は6時近くをまわっていた。 特に部活も何も無いのに帰りが遅くなるのは親に色々言われるのだ。 だから、はやく家に帰らないといけない。 でも、そんな時 ギュッ 「え、お兄ちゃん、帰っちゃうの?」 僕の制服の袖を掴み、寂しげに言う男の子。 まだ一緒にいたい気持ちを抑えて、僕は男の子に言った。 「うん。 でも、キミも帰らないといけないだろう? キミのお母さんとお父さんも、自分の息子の帰りが遅くて心配しちゃうよ?」 「でも…」 「大丈夫、僕またここに来るよ。 毎日は来れないけど、来れる日は必ずここに。」 そう、これっきり会えないなんてことはないのだ。 毎日は来れないけど、来れる日はある。 その時にまた会えばいいのだ。 「本当?じゃあお兄ちゃん指切りげんまんしようよ。」 「良いよ、指切りげんまんしようか。」 僕の言葉に、不安そうにまだ薄めの短い眉毛を八の字にひそめながら、 男の子は指切りげんまんしようと言ってきた。 それに対して僕は良いよと言った。 指切りげんまんか、懐かしいな。 最後にしたのは、小学2年生の時ぶりだったかな。 思わず一瞬、懐かしさに思い出にふけいっていた。 「せーの。」 「「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。指切った(!)」」 「へへ、約束だよお兄ちゃん!」 「うん、約束だ。」 こうして僕らは約束を交わした。 また必ず会うための"約束"を。 『縺ゅ?荳悶↓荳?邱偵↓陦後¥邏?據』を。
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