前編

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「それじゃあ僕行くね。」 「うん。」 「キミもちゃんとこの傘をさして帰るんだよ。」 「わかってるよお兄ちゃん。」 約束を交わした僕らはそれぞれの家に帰ろうとしていた。 僕はと言うと、男の子にお前は親かと言いたくなるような色々な事を口々に言っていた。 ちゃんと傘をさして帰るかなとか、見てないところでまたずぶ濡れになるのでは ないかとか、ちゃんと家に1人で帰れるのかとついつい心配になってしまうのだ。 そんな僕に男の子は困ったように言うも、顔はどこか嬉しそうだった。 それを見て、自分もまた少し頬が緩んでいた。 「そう言えばお兄ちゃん。 ボクのこと、キミじゃなくて名前で呼んでよ。」 「ん?あぁ、そういえばそうだった。 僕キミの名前聞いてなかったね。 名前、なんて言うの?」 ふと男の子が不満そうに言うそれにハッとなった。 確かに僕、ずっと男の子のこと君って言ってたな。 肝心の名前を聞いてなかった。 だから僕は今更ながらも男の子の名前を聞いた。 「ボクの名前はね、くもでら ツツムって言うんだ!」 「ツツムくんて言うのか。 いい名前だね。」 「うん!」 ツツム、か。 優しく包む子、と言う意味でつけられた名前なのかな。 本当に素敵な名前だ。 それをツツムくんに言うと、とても嬉しそうにうなづいた。 その姿を見て胸がキュンとしたのはもう言わずもがなだ。 「あ、そうだ。 僕の名前言ってなかったよね。 僕の名前は━」 「とうり、だよねお兄ちゃん。」 「…あれ、僕、ツツムくんに名前教えたっけ?」 ツツムくんに自分の名前を言ってないことに気付いた僕は自分の名前を言おうとした。 そしたらツツムくんは僕の名前を言ったんだ。 その事に違和感を感じた。 僕、ツツムくんに名前を教えたか? 「ううん、お兄ちゃんの鞄から見えてるノートに名前が書いてあるのが見えたんだよ。」 「え?…あ、ほんとだ見える。 何だそういうことか。 ちょっと僕びっくりしちゃったよ、はは。」 ツツムくんの言うそれに鞄を見れば、確かにそうですねチャックが空いてるところから ノートが見えていた。 それがわかった瞬間疑問は吹き飛び、自分のしまりがちゃんとしてないところに なんだかはずがしくなり、苦笑いがでた。 「へへ、お兄ちゃん変なのっ。」 「//…ゴホン。 とりあえずちゃんと名前を言うよ。 僕は、雨芽灯凜(あまめ とうり)だ。 僕の呼び方は何でも良いよ。」 畳み掛けるように言うツツムくんに恥ずかしさが余計募り一瞬かたまってしまった。 でも、いけないと思い1度咳払いをしてから自分もちゃんと名前を名乗った。 「あ、何でも良いの? じゃあ、じゃあねっ、とう兄ちゃんってこれから呼ぶねっ。」 「うん、ありがとう。 素敵な呼び方だね。」 「へへ、でしょ!」 「うん。 って、やばいマジで早く帰らないと。 ツツムくん、僕行くね。」 ツツムくんとのやり取りに和んでいたが、ふとまた帰らなきゃいけないことを思い出した。 僕はツツムくんに一言そう言い、帰路に向かおうと立ち上がった。 「…とう兄ちゃん、約束だからね。」 「うん、分かってる。 ちゃんとまたここに会いに来るから。 だから、安心して、ツツムくん。」 ワサワサ 不安そうにゆらゆらと目を揺らすツツムくん。 それに僕は安心させるように優しく、頭を撫でながら言った。 「うん、分かった。 ボク、ちゃんといい子にして待ってる。 だって、とう兄ちゃんが大好きだから。」 ニコッ …………… やばい、今の破壊力やばすぎた。 可愛い尊すぎて召されそうになった。 本当にツツムくんは可愛い。 こんな可愛い子供いたかとつい考えてしまいそうになる。 「とう兄ちゃん?」 「…………ハッ、いけないいけない。」 ツツムくんの声にまた自分の世界に入ってたところを目を覚ました。 たまにこうやって自分の世界に入っちゃうんだよね、いけないいけない。 そう思って心の中で思わず汗を拭う。 「うん、僕もツツムくんのこと大好きだよ。 それじゃあ、僕帰るね。 ツツムくんもちゃんとその傘さして帰るんだよ。」 「へへ、うん!とう兄ちゃん、またね!」 気を取り直してそう笑みを浮かべながら言う僕。 それに対してツツムくんは手を左右に大きく振りながら無邪気な笑顔をした。 「うん、またねツツムくん。」 「うん!」 僕もまたねと言いながら、手を振りその場を離れた。 その時だった。
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