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チリーン!
「!この音、さっき聞いた音だ。」
聞き覚えのある音に、思わず進めた足が止まった。
この音は一体何なのだろうか。
そう思って、音のした方を振り返った。
振り返ったのだ。
「……え?」
音が聞こえた場所、それはさっき、僕とツツムくんのいた場所だった。
そこにはツツムくんはもういなかった。
変わりに、美しく咲いていた紫陽花に、さっきなかったはずの色の花が1輪咲いていたんだ。
"赤色"の紫陽花が。
それに驚いて、僕は気付けば雨が降っているのにも関わらず、紫陽花が咲く花園へと
戻っていた。
「こんな色の紫陽花、さっきあったっけ?」
間近で見てみると、やっぱりそれは確かに赤色の紫陽花だった。
まるで、人の血を浴びたように赤い、紫陽花が。
あまりの赤さに不気味を感じつつも、美しいと思ってしまっている自分。
僕はその異質な紫陽花の花に魅了されていた。
ドロォォオオ……
おィデ、オぃで、ネぇ……
綺麗、だなぁ
コッチニ、おィデェぇえe〜
ずっト、コノママココにイた━━━
「灯凜?」
「!?……あれ、僕今何してたんだ?」
赤色の紫陽花をずっと見ていた。
そしたら、気付いたら僕は意識が飛んでいた。
なんで意識が飛んだんだろう。
意識が飛んだ時の記憶が全くない。
でも、記憶がないのにも関わらず、何故かそれ以上いってはいけない、
というそれがあった。
なんだった、のだろうか。
「えっと、灯凜大丈夫か?」
「へ…!!って、えあ、えっ!
なんでここに輝助がいるんだ?」
考えていたら、気付いたらいなかったはずの人物がいた。
それは、心配を見せつつもちょっと戸惑いながら言う輝助がそこにいたんだ。
その事に僕は酷く驚いた。
だって、輝助は雨になったせいで部活がなしになったから先に帰っていたのだ。
なのに、どうして輝助は制服姿でここにいるの?
「あー、ちょっとな。
それよりも、灯凜お前傘どうしたんだよ。」
「傘?、、あっ、最初持ってたんだけど雨でずぶ濡れの男の子がいたから、その子にあげたんだ。
だから傘もってなくて、走って帰ろうとしてたところだったんだよ。」
「男の子?」
「うん、いまさっきまで一緒にいたんだ。」
僕がそう言うと、輝助はどこか怪訝そうな顔をした。
なんでだろう。
傘を持ってたら目立つから、輝助は男の子見かけなかったのかな。
「…そっか。自分か濡れちゃうのをかえりみずに男の子のことを心配して傘を渡すとか、
灯凜は優しいな。」
「ははっ、そんなことないよ。
僕はただ、当たり前のことをしたまでだよ。」
少し考え込む姿を見せたと思ったら、笑みを浮かべ僕に言う輝助。
それに対して少し不思議に思いつつも僕はこたえた。
「当たり前のことかもしれないけど、俺は灯凜は優しい奴だと思ってるぜ。」
「!…うん//」
「ははっ、照れてる灯凜は可愛いな。」
「う//からかわないでよ輝助。」
輝助の唐突にくるこれにはいつも僕はタジタジになってしまうんだ。
普通に嬉しいけど、そこで輝助がからかうんだもの。
恥ずかしくてたまらない。
でも、正直な話幸せだった。
輝助は僕のことを見てくれてるんだ。
まだ輝助は僕のことが好きなんだなって、感じるから。
…本当はそれは嘘かもしれないのに。
なんで最近輝助は僕を避けるの?
分からない……分からないよ。
「灯凜、帰ろうぜ。
ほら、俺の傘に入んな。」
「うん、ありがとう輝助。」
輝助との相合傘。
喜びよりも沈んだ気持ちが大きくて、嬉しいはずなのに喜べなかった。
ダメだな、僕。
本当なら、ちゃんと輝助のこと信じなきゃいけないのに。
(へへ、約束だよお兄ちゃん!!)
クスッ
…いまさっきまでやり取りはちゃんと覚えてて、本当に楽しかったな。
不思議な子だったけど、可愛くて良い子で、弟にしたくなるような子だった。
また会いたい、な。
次会う時が凄く楽しみだ。
沈んでいた僕の足取りは、気付けば軽くなっていて、岐路を歩んでいた。
僕は気づかなかった。
いまさっき見た、血のように赤い紫陽花が消えてることに。
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