叢 -くさむら-

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「……俺には相応しくないと思ったから、辞退したまでだよ」  中学二年生の時、生徒会の選出が終わった後の宮奥昭の言である。  小学生の早い段階で頭角を現した宮奥は、小学校高学年、そして中学一年生と学級委員を歴任した。小学六年生の時には「児童会」という、生徒会に類似するものに参画していたりした。当時から彼を見ていた私としては、自分のことのように喜ばしい躍進であった。  しかし、中学生も中盤に差し掛かる頃、彼の栄光にもついに陰りが見え始める。  中学生になってからはっきりしたことだが、彼は成績もなかなかに優秀であった。我が地元には小中学校が一つずつしかないため、ほとんどの者は九年間顔を合わせ続ける。彼はその中にあって、中学生最初のテストで学年三位という華々しい結果を出した。それからしばらくは、学級委員や委員会委員長など責任ある名誉職を、民衆の支持——もとい、既知のクラスメイトや委員各位の推薦によって拝命し続けた。しかし、中学二年生の第一学期のことだった。彼に明確な変化が起き始めたのは。  中学二年生になったばかりの四月の第一週。我々にとっては既に見慣れた光景であったが、いつものように宮奥が推薦によって学級委員となった。宮奥は当然のように、当然だという顔をして虚空を見つめていた。私は心からの祝福を、心の中で彼に送った。私を含めたクラスの皆は一様に、彼の前途有望と自らの無責任とを心の底から祝福した。  しかし、第一学期の最終日のことであった。我が母校には、学期の終業式において、各クラスの学級委員の中から選ばれた一名が今後の抱負を述べるという儀式が存在した。そして宮奥は喜ばしいことに、その生贄——もとい、適者に選ばれたのであった。  当初私や他のクラスメイトたちは、彼の演説と長期休暇の開始が待ち遠しくて、第一学期の残りの日々をただ早く過ぎろと願いながら面白おかしく過ごしていた。その中で私は、終業式の日が近づくにつれて、段々と彼の顔色が悪くなっていくことに気がついた。 どうしたんだろう? 体調でも悪いんだろうか? 私は心配だった。彼の晴れ舞台である終業式は目前であり、当日は最高のパフォーマンスを見せることを教師たちから望まれていたのだから、彼の体を気遣うことは当然であろう。彼が緊張しているだなんて、微塵も思ってはいなかった。  当日。彼は圧巻のパフォーマンスを見せつけ、教師たちの期待を鮮やかに裏切った。  棒読み。どもり。回らないろれつ。教師たちの宮奥への信頼は地に落ちた。他のクラスメイトからの彼への評価に変化はなかった——誰もが元々必要以上の興味を彼に対して持っていなかった——が、私だけは別だった。夏休みと同時に、何か新しいことが始まる気配がしたのを強く覚えている。  結局第二学期、第三学期になっても宮奥の態度は改善の兆しを見せず、ついに生徒会メンバーに選出されることはなかった。この頃から私は彼へさらに興味を抱き始めた。さらに彼に近づきたい欲求に駆られた。もっとも、それまでの地位を失った彼の方から私に接近してくるまでに、多くの時間は必要なかったが。私が彼に生徒会に入れなくて悔しくないのかと尋ねた時に発されたのが、先述の言である。 その時の彼の表情を、私は今でも鮮明に覚えている。その時以前のどの瞬間よりも、最も生き生きとした表情であった。
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