抗がん剤治療2回目と「脱毛」。

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抗がん剤治療2回目と「脱毛」。

抗がん剤治療2回目の話しの前に、ちょっとだけ治療費のお話し。 私はいわゆる「がん保険」に入ろうとした前に、今回のことが発覚したので、治療費については戦々恐々としたんですよね。でも、派遣元会社の営業・Tさんや保険担当部署への問い合わせ、長期休養したことがある知人からのアドバイスなどで、なんとかやっていたのですが…… 社会保険制度のすばらしさってのを、この病気で痛感したのも事実です。 高額医療費、限度額認定証、傷病手当金。 これらは、病気が発覚・入院、手術が決まったら、早急に手を打っておいたほうがいいです。私は、急な話しであったと同時に、勉強不足もあって、手続きが遅れてしまったのですけれど、このふたつは本当に重要。 「高額医療費」については、私の場合は所属している会社の健保組合が自動的にレセプト(病院から送られてくる診療報酬明細書)で計算をしてくれるので、特に届け出は必要なく、レセプトが健保組合に提出されて2か月後くらいには、計算された金額が振り込まれてきます。 「限度額認定証」は、通院中、窓口で支払う診察代を軽減したいときに使います。ある一定の金額以上は自己負担しなくてもいいという、非常にありがたいものです(いただいている給与によって自己負担金は違います)。 この「限度額認定証」は、書類提出が必要で、これを最初にしておくと、たとえば入院・手術して、退院する時に窓口で支払う金額がかなり軽減されます。私はこれをしておかなかったので、のちのち、計算された金額が現金として振り込まれてきました。書類提出後、数日後には健保組合から認定証が送られてくるので(期限付きなので要注意。期限が過ぎてもまだ通院する場合は、やはり手続きが必要です)、通院時には必ず診察代を支払う窓口で提出が必要になります。 それから、長期療養する間の生活費にも関わってくる「傷病手当金」ですが、これは書類提出がその都度、必要です。先にも書いていますが、主治医の所見が必要ということと、その後、健保組合での審査が入るため、支給されるのに1か月ちょっと、要します。支給されるには条件があって(金額については個人差があります)、それらの条件を満たした場合のみ、支給される仕組みです。幸い、私の場合は「条件」をすべて満たしていたため、療養中は連続して傷病手当金をいただくことが出来ました。 これらは、いただける金額には個人差があったり、条件があったりするので、詳しくはお勤めしている会社の保険担当者や総務担当さんに聞いていただくのが一番だと思われます。 ただし、注意してほしいのは、休養中でも健保組合には加入しているわけで、収入がない間も保険料というのは続いております。んでもって、仕事に復帰した後に、休業していた間の保険料が差し引かれる……という、恐ろしい事実もありました…… これで、私はものすごい苦労しました……それがかなり生活費に響き、仕事に復帰してから2年半ほど、生活がものすごい苦しかったという現実もあります……貯金やがん保険ってのは大事ですよ、ええ…… では、本編の続きをどうぞ。 抗がん剤治療2回目。 朝、着替えて、文庫本を数冊、カバンの中に入れて、近所のコンビニでお昼とドリンク、ちょっとしたおやつ(私の場合はグミ!特に柑橘系のグミ!)を購入して病院へ行く。 朝、8時過ぎに家を出て、病院へ行き、総合案内の受付機で予約票を引っ張り出し、外来治療センターの前でしばらく待つ。 外来治療センターは完全予約制なので、混むことはまず、ないのだが、なにせ「一日仕事」になる。朝イチで病院へ行き、帰宅するのは18時過ぎになる。 朝8時30分、診察開始のチャイムが鳴ると同時に、外来治療センターのドアが開くので、中へ。 中待合室にあるロッカーに大きな荷物やコートなどをしまって、小さな手提げにドリンクとおやつ、お財布、スマホを入れて、まずは採血と体温・血圧、体重を測定。その後、血液検査の結果が出るのは1時間くらいかかるので、その間に看護師のYさんとお話しする。先にも書いたが、Yさんは、がん治療(抗がん剤治療)のスペシャリスト看護師の資格を持つ方。 初めての外来治療センターということもあって、簡単な流れの説明と、治療への不安、生活上の不安などを、Yさんは聞いてくれる(問診ですね)。 「そういえば、カナデさん、ウィッグはどうされます?」 と、Yさんが言ってくれた。私のアタマには、すでに脱毛症状が出ていて、なにもしなくても、ぱらぱらと髪が落ちてくるようになっていた。それが鬱陶しいので、専用のネットをかぶり、その上から大きめのエスニック調のストールを巻いている。 脱毛が必ず出る抗がん剤なので、こういう話しは必ず、される。1回目の時も、薬剤師さんがその話をしてくれたのだけれど、私は少し考えてから、 「いや、いいです。特に人前に出る仕事ではないですし……」 医療用ウィッグって高額なんだよね……今はそれでも、だいぶお手軽になったとはいえ、でも……とてもじゃないけれど、私には無理だと思ったから。それに、帽子やストールで遊べるだろうと思った。 うたうことが趣味という関係もあったし、もともとが帽子好きでもあり、ストールでアタマを覆うことも多かったから、なんとかなるだろうと思っていた。一番は、スキンヘッドになっていく自分も見てみたいという、妙な関心があったんだよね、実は(笑)んで、無理に購入することもないだろうと、自分では判断した。Yさんもそこは理解してくれたようで、むしろ、 「楽しんじゃったモン勝ちかもしれませんね。前向きな気持ち、大事ですから」 と、一緒に笑ってくれた。 それから、婦人科外来へ行って、A先生の診察。 行ってしばらくすると、呼ばれたので、診察室へ入ると、A先生がニコニコの笑顔で待っていてくれた。ホント、穏やかな方だよな~。妙に安心するんだよねぇ。 「あ、カナデさん、おはようございます。血液検査の結果、出てますよ」 そう言って、プリントアウトしてくれた。結果から言うと、2回目の投薬ができるということだ。 「あ~……あの吐き気と痛み、また来るのか…」 と、小さく呟いたら、A先生は、 「吐き気止めの点滴、前回と違うものに切り替えるよ」 と返事をしてくださった。 「ああ、脱毛、進んでますね」 A先生の言葉に、私は苦笑いしつつ、 「そうですね」 と、返事をした。 この脱毛なのだが…… 1回目の投薬から12日目の朝。 「ん?」 と、髪に触れた時、なにか違和感を覚えた。あれ?なんか変だなと思って、指で軽く髪を引っ張ってみた。 「うわ!」 ごそっという感じで、まるで筆先のように…ぼそっと髪が抜けたのだ。 「え、え?これ、マジで?」 慌ててもう一度、引っ張ってみると、やっぱり、ぼそっと大量に髪が抜ける。 いや、ちょっと待て。ネットとかでは調べたりしたけれど、なんだよ、この抜け方! 「うあああああ」 慌てて風呂場で、髪を洗うと……抜ける抜ける抜ける抜ける抜ける抜ける……ごっそり、ばっすり、もっさり……抜けていくのだ。梳いても梳いても、キリがない。浴槽に髪が大量に浮かぶという、まるでホラー映画が殺人事件か…という、とんでもない光景が展開されたのだ。 髪は短いほうだけれど、それでもすごい異様な光景。 「いやあああああ……!」 思わず涙声で叫んで、その場に座り込んでしまった。 覚悟はしていたけれど、あまりにも急に来たし、それに思っていた以上の抜け方だったので、びっくりしたというのが正解かもしれない。キリがないので、ある程度、落ち着いてから鏡を見て、号泣。 本当に、見事に抜けていくのだ。 まだ1回目だというのに……地肌が少し、見えてる。 「なんで、こんな…」 鏡の中の自分を見て、思わず叫んだ。 「私だって、なりたくてなったわけじゃないわい!なんで、こんな思いをしなきゃならんのだ!」 1月の、あのライブハウスの一件を思い出し、ものすごい悔しくなって…怒りと悲しみが入り混じったというか…この時の気持ちは、3年経った、今も忘れてはいない。 それと同時に、私も一応、オンナなんだなと思った。やっぱり、毛髪が抜けていくというのはショックなことだ。そして、薬物の恐ろしさというのを身をもってこの時、知った。 「わかってはいたはずなんですけれどね…まだ、これからなのに」 私の言葉に、A先生も小さく頷いてくれた。 その後、次回の抗がん剤治療の予約を入れて、血液検査の結果票を持って、外来治療センターへ戻る。外来治療センターと婦人科外来は、正反対の端っこにあるから、どうしても歩かないとならないのよね。 「ただいまー」 と、センターの中に入ると、看護師さんや医療ヘルパーさん、クラークさんたちが、 「おかえりなさーい。それじゃ、始めましょうか」 と、明るく迎えてくれた。ベッドが割り当てられ、枕には持ってきたタオルを巻く。抜け毛が枕につかないようにするためだ。 手の空いている先生が来てくれて、抗がん剤投与のための針を血管へ入れます。これで準備OK。 まずは生食水を30分、その後、吐き気止めの薬を30分。 その後、中待合室でお昼、30分。ちなみに、お昼を食べている間も生食水を入れているから点滴を打ったまま。 この日、たまたまなのだが、中待合室にあったテレビで流れていたのは、とある、新しい抗がん剤治療薬の話しだった。高額医療費制度を使っても、1回60万とかなんとか…まぁ、新薬開発には、材料費はもちろんだが、人件費や時間、治験などが関わるから高額になるのは理解するけれど、さすがに高すぎる。稼ぎは年々、少なくなる一方で、保険料は上がるばかり……これって、今の日本の「影」だと思うんだよなぁ。真剣に考えないといけない問題なんだけれど… そんなことを思いながら、再びベッドに戻ると、いよいよ、抗がん剤その1「タキソール」(パクリタキセル)が入る。これが3時間、かけて、ゆっくりゆっくり、投薬していくのよ。 しばらくすると……きたきた、来ましたよ……顔・カラダのほてりと、手足の痛みと強張りが少しずつ出てきた。ああ、これ、これが一番怖い。少しずつ強くなっていく。 「痛いよー……痛いですー。熱いですー…」 30分ごとに看護師さんが来てくれるけれど、その前に耐えられなくなって、呼び出しベルを鳴らす。身体のほてりを抑えるために、氷枕をタオルで巻いたものを首の下に入れてもらった(真冬だけれど、これが気持ちよかった)。 タキソールが終わると、抗がん剤その2「カルボプラチン」。これは1時間かかる。 外来治療センターのベッドには、それぞれ、テレビがついている。イヤホンは自分で用意するんだけれど(私も持っていた)、お願いすれば、DVD再生プレイヤーも貸してくれる。スマホも基本OK(話す場合は、待合室へ行く)。 お手洗いは、行きたいときに看護師さんにお願いすると、一時的に投薬のスイッチを止めてくれて、生食水を入れたままだがセンター内にある、お手洗いに行くことが出来る。 とにかく、寝ているしかないので……でも、抗がん剤の中には眠くなる薬が入っているから、途中で寝てしまうことも多かった。また、抗がん剤は精製する過程でアルコールが入るので、体質によっては酔っ払ったような感じになるし、私も実際、お手洗い時に足がふらつくこともあった。 乾燥している室内だったから、水分は摂ったね~……500のペットボトルを途中で購入してきていただいたりもした(外来治療センターの前にあるのだ。3回目からは用心してペットボトルを2~3本、持ってくるようになった)。 17時には、院内に日勤終了のチャイムが鳴る。外来治療センターはクラークさんたちは仕事が残っていない限りは帰宅するけれど、投薬が終わらない私のような患者もいるので、看護師さんたちは当番制でそのまま、勤務を続けるようだ。 最後に、15分ほど、生食水を入れて、2回目、終了。 時間は18時を過ぎていた。 「長いなぁ……」 思わずつぶやいてしまった。看護師のMさんが笑って、 「そうですねー。でも、外来治療ができるようになったのは、患者さんの金銭的な負担を考えると、いいことだと思うんですよね。病状やがんの個所などにもよりますが、入院して抗がん剤治療というのは、今は少なくなってきているかなって思いますよ」 「なるほど…」 色々、進歩しているんだろうなぁとも思う。 その後、お礼を言って、身支度をして、時間外窓口へ。この時間だと総合受付はクローズしているので、会計は時間外窓口でやってもらう。 「う~む…」 数万円単位の治療費……怖い。 その後、院内処方ということで、薬剤部の窓口へ行って、10種類近い処方薬を出していただき、説明を受けた。 正面玄関を出ると、とっくに日は暮れていて、真っ暗。寒い。 病院前のバス停へ行くと、幸いなことに、すぐに駅へ向かうバスが来てくれた。ありがたい。 かったるさは出てきているけれど、辛いというわけじゃないので、移動するなら今のうち。駅まで行くと、そこからは徒歩。途中でお弁当屋さんに立ち寄りって夕飯を購入。 歩きながら、実家へ電話して、母と話しをしているうちにマンションに到着。 手洗い・うがいをして、お湯を沸かしながら着替える。一旦、部屋の窓を開けて空気を入れ換え、お湯が沸いたところで窓を閉じる。 お風呂に入って、湯冷めしないように気を遣いつつ、お弁当をあたためながら白湯を飲み、テレビを観ながらお弁当を食べて(食べられるうちに食べておかないと、この後が地獄だというのは、前回で痛いほど理解したので)、マグボトルにあったかいほうじ茶を入れて、ベッドサイドにおいて、処方されたおくすりを飲んで横になった。 うーむ…なんだか、眠れない予感。 案の定、午前1時になっても眠れん。おまけに、じわじわと痛みも出てきているし…というわけで、鎮痛剤と睡眠導入剤を服用。一日に飲める回数が決まっているから、慎重にならないとね。 あ~…しんどい(涙) なんで、こんなつらい思いをしてまで、治療しなきゃならないんだろう… 寒くなってきたアタマを気にしつつ、その日はなんとか眠ることが出来た。                 (次回へ続きます)
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