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ヨタ話し。『No Attack, No Chance』
この章は、私の完全なる個人的趣味のヨタ話し。
余談とも違うので、気楽に読んでいただければ幸いです。
6回目の抗がん剤投与後の療養中、嬉しいニュースが飛び込んできた。
世界三大モータースポーツのひとつであり、アメリカン・モータースポーツの最高峰『インディアナポリス500マイルレース=インディ500』というレースがあるのだが、2017年の優勝は、日本人ドライバーの佐藤琢磨選手が優勝!
琢磨くんのことは、F1参戦をする少し前から、ずっと応援している。
F1参戦時は、鈴鹿サーキットへ足を運んだし、インディへ移籍してからは、ツインリンクもてぎへも観戦に行った。
簡単に説明すると、『インディ500』とは、アメリカ・インディアナ州の州都・インディアナポリスにある、インディアナポリス・モータースピードウェイ(IMS)で行われる、伝統あるモータースポーツの祭典。およそ1か月近い間、市内はお祭り状態。レースも、インディ500の練習走行や予選から盛り上がり、また、ルーキードライバーたちのレースもあったりして、本戦の決勝戦まで数日をかけて行われる。
また、インディ500では1位以外は存在しない、というのも特徴。
今までも日本人ドライバーが参戦していたが、勝利を掴むというところまではいっていないのだ。モータースポーツで日本人ドライバーやライダーが活躍する場というのは、なかなかないのだが、佐藤琢磨というドライバーは、果敢に挑戦している。
彼が、ホンダ所属のプロドライバーだというのはご存知の方も多いだろう。この年、チームはアンドレッティ・オートスポーツに所属。
私はネットを通じて観ていたのだが、2012年のインディ500で、ダリオ・フランキッティとの「一騎打ち」で、勝利を逃した琢磨くんのことをよく覚えていたので、2017年のレース展開には、ほんっとにハラハラしっぱなし(笑)
自分の身体の痛みもあったけれど、それ以上にレース展開がすごくて、ネット上でもtwitterではお祭り騒ぎだった。
琢磨くんのことを、長く見ているファンの方々は、よくご存じではあると思うのだが、彼がトントン拍子でレースを進めていくと、絶対になにか(アクシデント)があるという「お約束」がある。この2017年も、イエローコーションが何度もあり、そのたびにひやりとしたけれど、最後の最後まで、目を離すことができない展開で、彼が最後の5周を周回する間は、もう、祈るしかない状態。
そして、彼はエリオ・カストロネベスを振り切って、最初のチェッカーを受けた。その瞬間、私もベッドの上でガッツポーズ!
日本人が初めて、インディ500で優勝した瞬間を、私も目撃したひとりとなった。
その半月後、優勝報告ということで、琢磨くんが弾丸スケジュールながら、日本へ凱旋帰国。東京・青山にある、本田技研工業本社、青山ショールーム(ウエルカムプラザ)にて、優勝報告会が開催されることになった。
この時は、私も体調がだいぶ良くて(手足の痺れはあったけれど)、朝早くにチケットをゲットするために都内へ移動。この日は霧雨が降っていて、6月中旬とは思えない寒さだった。
杖をついて、電車を乗り継ぎ、青山まで行くと、顔見知りさんがちらほらといることに気づく。順番待ちでぼんやりしていた私に、声をかけてきたのが、F1時代からのお付き合いがある女性。
「どうしたの?なんだか、顔色が悪いし、それに……杖って…」
彼女とも数年ぶりの再会だ。
「ああ、実はちょっと……あはははは……」
ああ、やっぱり体調、あんまりよくないかも。寒かったというのが一番かな。
自分の今の状況を簡単に説明すると、彼女、絶句。それから、
「でも、こうやって会えたの、嬉しいわ。よかった…」
と言ってくれた。本当にうれしかったな。こちらこそ、ありがとうって言いたかったよ。
その後、チケットを無事に手に入れることが出来た(しかも座れる番号だったのがラッキー)ので、一旦、自宅へ戻った(イベントは18時30分からなのだ)。
家に戻ってからも少し横になっていたけれど、なんとなく体調が優れない。
でも、琢磨くんの顔、見たい……ということで、しっかり防寒対策をとって、再び、青山へ向かった。
イベントそのものは、とにかく大盛り上がり。
司会は、GAORAのインディ実況でもおなじみの、村田晴郎さん。
日本に帰国しても、スポンサーへのあいさつ回りや取材攻勢で弾丸スケジュール……お疲れのはずの琢磨くん、相変わらずよくしゃべる(笑)もともと、彼はファンサービスの良いドライバーとしても有名。時間が許す限り、サインを求めるファンには応じるし、写真撮影も気さくに応えてくれる。これもファンが多い要因のひとつだろう。
こういう話しがある。
初めて、彼がインディドライバーとして凱旋した、もてぎでのインディジャパンの時のこと。
それまで、アメリカ国内での琢磨ファン人気というのは、アメリカのメディアからはあまり気にされていなかった。ほかにもスタードライバーはたくさん、揃っていたというのもあるし、日本人がモータースポーツにはあまり興味がないだろうという考えもあったらしい。
しかし、彼が日本でどれだけの人気を誇るのか、この時、メディアは目の当たりにする。
彼が動けば、人だかりができる。
琢磨関連のグッズなどは本戦の前にはすでに売り切れてしまい(のちに日本での某グッズショップで、大問題になったという話しも…)、予選の時の琢磨への声援、超満員のツインリンクもてぎ(私もそのうちのひとりでありました)……
「タクは、こんなに人気があるのか?!」
と、驚く海外のマスメディア。
私の知人のひとりでもあり、アメリカ在住でこの時、取材に来ていたフリーの日本人記者さんがいるのだが、この方が、驚いている海外メディアの記者さんたちの前で笑ったそうだ。
「だから言ったでしょう?日本での、タクの人気はすごいんだよって。それまで、何度言ってもなかなか信じてもらえなかったけれど、あの時のもてぎで、アメリカのメディアも彼に俄然、注目するようになったんだよ」
アメリカのメディアが本当に目を丸くしていたのだそうだ。
その後、アメリカでの人気も少しずつ上がっていく。
2012年のインディ500での、あのダリオとの一騎打ちが彼のレーシングスタイルをまさに表現し、人気が一気に加速したらしい。
イベントが始まった直後に、彼が会場を一周してくれるというファンサービスがあった。
偶然にも、私が座っている場所にも琢磨くんがやってきた。
「琢磨くん、お久しぶりです。本当におめでとう!」
声をかけさせてもらった瞬間、彼は私の顔を見て、
「うわっ、お久しぶりです!来てくださったんですね、ありがとうございます!」
と、満面の笑みで応えてくれた。ああ、覚えていてくれたんだと、ちょっとうれしくなったし、彼の記憶力のすごさも改めて思ったよ。
村田さんの話術と琢磨くんのおしゃべりは留まるところを知らず、インディ500の動画を見ながらの、琢磨くん自らの解説という、非常に贅沢な時間を満喫。
20時、イベント終了。
私は久しぶりに会った方々ともあいさつを交わし、そのうちの何人かの人が、途中まで一緒してくれることになった。
実を言うと、イベント終了間際になって、目が廻って立ち上がれなくなっていたのだ。そばにいてくれた知人が気づいてくれて、ウエルカムプラザのスタッフさんからのお気遣いで、ホールを出る順番を最初にしてもらった。
雨の上がったウエルカムプラザ前で休んでいたけれど、どうしても回復しない。こりゃまずいでしょ、どう考えても。でも、移動しなきゃ。
地下鉄から私鉄へ乗り継いで、途中駅で知人のみなさんとおわかれ。
コトコトと揺れる電車の中。
ウエルカムプラザと電車内の、妙な空気のこもり具合と、早朝から動いていたということもアダになったのだろう。めったに乗り物酔いをしない私が、フラフラになって乗換駅で降りた。これ以上は、電車に乗りたくない。最寄駅から歩くことも考慮して、乗換駅の改札を出て、タクシーを使うことにした。
行き先を告げて、そのまま後部座席でぐったりしてしまったが、運転手さんもさすがプロ。揺れの少ない、安心できる運転で無事に自宅前まで送っていただいた。
よれよれになってマンションの階段を上がり、玄関をなんとか開けて、手洗いとうがいをしっかりしてから、着ている服をラクにして、おふとんに転がった。
「ぎもぢ……わる……」
冷蔵庫の中のOS-1を手にしたまま、しばらく転がったまま…でも、なんとか着替えて、テレビをつけると、NHK総合にチャンネルをあわせた。
『クローズアップ現代プラス』に、琢磨くんの姿。
さっきまで、同じ空間にいた彼が、テレビに出ている。
「ホント……忙しいねぇ……」
ちょっと声に出して呟いてみたりして。
その後、私はそのまま眠ってしまった。
翌朝、起きても体調は優れず……免疫力の低下って、こういうところにも出てくるんだなと痛感。とにかく、カゼをひかないようにするのが精一杯だった。
無理は出来ないんだなぁ……と、天井を見たまま、悲しくなってしまった。
仕方ないんだけれどさ。
体調を戻すには、時間がかかるようになっているということも、この時、改めて思ったよ。
そして、2020年8月。
いつもなら、5月に行われるインディ500だが、今年はコロナ禍の影響で延期になって、さらにインディカーシリーズ始まって以来の無観客レースとなった、第104回インディアナポリス500マイルレースにて、琢磨くんは2度目の優勝を果たす。
確かに年齢を重ねているのは事実だけど、彼はいつまでも若々しい。
モータースポーツの神様が、彼の年齢を途中で止めてくれているのではないかと、私は真剣に思っていたりするのだ(笑)
だけどさぁ、日本のマスコミのみなさん……もう少し、モータースポーツというものに目を向けて欲しいのだ。
……余計な時は騒ぐくせに……(ぼそっ)
インディ500で日本人が勝つというのは、例えれば、
『テニスのウインブルドンで、錦織圭くんが優勝する』
ことに匹敵するんだってば。
どれだけすごいことなのか……もう少し、ニュースで取り上げてもらってもいいんじゃないかと常に思っている。
きちんと報道してくれるのは、NHKとGAORA(インディカーシリーズを放映してくれているからね。NHKは、SRS-F時代の琢磨の秘蔵映像を持っているということもあるのか、意外とインディに関しては取材をしてくれている)、一部のスポーツ新聞さんくらいなものだろう。
モータースポーツのチカラ。
モタスポは決して、ふだんの生活をしている私たちとは無関係ではない。
モータースポーツとは、
『動くクルマやバイクの実験室』
みたいなものなのだ。
そこんところ……もう少し、なんとかならんのかね……
以上、カナデの完全個人的趣味のヨタ話しでした。
(続きます!)
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