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抗がん剤投与中の話し、あれこれ。
今までの話しの中で、書ききれなかったことや書き漏れもあるので、この章はそんなあれこれを、いくつか書きたいと思います。
私の手術は「全摘手術」でした。
子宮と卵巣、大網というものをすべて摘出。これ、摘出したモノを、私自身は直接見ることはできなかったが(母と叔父夫婦は見ている、念のため)、後日、画像で見ることになりました。
最初は、なんとなく躊躇っていて、ようやく決心がついた時、主治医のA先生にお願いしたのです。
「先生、お願いがあるんですけれど」
「なんでしょ?」
「私が手術で摘出した部分って……画像、残ってます?」
「ええ、ありますよ。見る?この間もちらっとお見せしたけれど、いやだって言っていたもんね」
そうなんです。
えー……摘出した部位の画像って、ちゃんと記録として残っているんですが、これ、本当にグロいんですよねー(^_^;) 怖がりの私は、どうしても、勇気がなかったので見られなかったのです。
だけど、少し状況が落ち着いてきて……やっぱり、見ておきたいって思った。
で、先生、すぐに電子カルテで、私の項目を引っ張り出してきてくれて、画像を出してくれました。ちなみに、フルカラー画像です(爆)
病巣っていうと「黒い」というイメージがあるかもしれませんが、そうではないんですよ。赤黒いところ、茶色のところ、白いところ、そして、黒いところも……ごちゃまぜ。
スプラッタ映画なんてもんじゃない、ホンモノの迫力です(ぉぃ)。
まずは卵巣と子宮なんですが、これ、本当に教科書なんかに出てくる通りの形をしていて……なんというのか、面白かったんです。面白いっていう言葉は語弊があるかもしれませんが……言葉がうまく見つからないけれど、ホントに、あのカタチをしているの。ヒトの神秘をちょっと、感じましたね。
「うあああ……」
よく見れば、左側の卵巣が本当に破裂してる(大汗)
これは、手術2日前に自宅前で派手に転倒したときにやってしまったんだと、改めて判明。A先生は苦笑いしていましたが、いずれにしてもこれも最初から摘出する予定だったんですよね。
「これでよく、2日間も耐えたよねぇ」
とのこと。
手術前になかなか、熱が下がらなかった原因のひとつでもあります。
「それから、これと……これ。あと、これが、MRI撮影で、あのおなかを輪切りにした状態で……子宮はここのあたりにある」
などといろいろ説明してもらいます。
腹水(おなかにあった大量の水)も、ものすごいことになっていました。
「それから、リンパ節。胃の下にある「大網」(たいもう)っていう部分なんだけれど、これも摘出したんだよ。これね」
と、見せてくださった画像は、なぜか脂肪の塊。赤黒いのと茶色の部分がごちゃまぜ。なんか、生魚の臓器のよう……(こらこら!)。
「今回の、がんの組織って、ここ(大網)に集中するんだよ。ここで一旦、キャッチしてくれる。で、今回は、これも全部摘出したというわけです」
「あ、だから、ほかの部位に飛んでいない(転移していない)って……確認できたっていうことですか?」
「そうそう、今回はここで全部確認できたから。大網やリンパ節ってね、大事なんですよ」
なるほど、やっと「腑に落ちた」。
手術前に、子宮と卵巣、全摘出するよって言われた時、びっくりしたんだけれど、それは転移を防ぐために必要なことだと言われたのですね。その時はピンとこなかったのですが、やっと、実物(の画像)を見て納得しました。
「……これ、うちの母、見たんですか?手術の時に」
と、私が聞くと、
「うん。実物だけど」
と、先生、あっさり返事をしてくれました。
そうか、摘出した直後だから、実物を見ることが出来たんだわ、母と叔父夫婦。
「カナデさんのお母さん、すごく落ち着いていらっしゃった。僕もいろんな患者さんのご家族とお会いしたけれど、とても冷静で、わからないことはしっかり、質問してくれる方はなかなかいません。でも、お母さんはきちんと話を聞いてくれて、わからないところは質問してくれました。おかげで、僕もきちんと説明できたんだ」
母、強い……
母には感謝と、詫びることしかできないよ……
そして、最後に出てきた書類の真ん中に、
「要・緊急手術」
という、大きな、赤いハンコが捺印されていることも確認できました。
「先生……私、やっぱり、緊急を要したってことなんですね」
小さく呟いた私に、A先生は頷いてくれました。
「そうなんだよ。僕も最初に紹介状を持ってきてくれたカナデさんを見ただけで、その必要性がわかったから、あの場で手術日の話をさせてもらったんだ。S先生が僕にちょっとだけ、事前に知らせてくれたこともあったからね」
これで、すべて、繋がりました。
ずっと考えてたこと、もやっていたことが繋がりました。
「……」
「どうしました?」
「ごめんなさい……もう、ホントに……抗がん剤の副作用もこんなにつらいとは思わなかったし、それに、今回の画像を見ていたら、自分、情けなくなってきちゃって」
メガネをはずして、顔を覆って……泣き出してしまった。
すると先生、
「大丈夫。あなたは、強いよ。僕は患者さんに、あんまり、こういうことは言わないけれど……あなたは強い。自分の病状を隠さず周囲に伝えてるっていうでしょ?それに、こうやって改めて僕の話を聞いてくれた。だけどね、泣きたいときは泣いていいんです。入院中のあなたの話を看護師のみんなから聞いていたけれどね、強がることなんてないんですよ」
と、穏やかに、静かに言ってくださいました。
ああ、ホントに……
「愚痴は吐き出しましょう。ココロないことを言う人も絶対にいる。だけど、吐き出さないと、本当に精神的にぼろぼろになる人もいるんです。カラ元気なんて、必要ないんですよ。外来診療にはそのためのプロ(心理療法士)もいます。僕も時々、顔を出すから」
「はい、ありがとうございます……」
これが、のちに出会う、療法士のKさんとの話に繋がっていきます。
私は人付き合いが極端にヘタなンゲンなので、付き合いというのはあまりないのですが、それでも、こんな私でも、仲間だと、友人だと思ってくれる人たちがいます。
前にも書いた、TさんやMねえちゃん夫妻がそうです。ありがたいお話し、本当に。
で、この抗がん剤投与中のある日、これまた、うた友達のCちゃんと会うことになりました。Cちゃんには年の離れた旦那さんがいて、前出のTさんとは旧知の仲。旦那さん=Aさんも、とても穏やかで優しい方です(やっぱりうた友達でもあります、はい)。
久しぶりの再会、私が入院・手術したのが年末ということもあり、お見舞いに行けなかったことを丁寧にお詫びしてくれた彼女。気持ちが嬉しかったです。
一緒にランチを食べに行ったのですが、Cちゃんお気に入りの役者さんが贔屓にしているという、ハンバーグ&ステーキハウスでした。こぢんまりしていますが、とても人気のあるお店。私も、おいしいハンバーグランチをいただくことができました。
そのあと、少しだけ街の中を歩いてから、とある場所で話しをしていたのですけれど……その時、Cちゃんに言われたのです。
「ねえ、カナデさん、もっと笑って?いつも私、思っていたの。カナデさん、病気をする前から、あまり笑ったところ、見たことがないなって。いつもうしろ向きっていうか……」
これ、かなりズキッと突き刺さりましたね、正直。
だけど、Cちゃんは、私に言ってくれたのです。
「笑うことって、免疫力を上げることにもつながるって、どこかで読んだことがあるの。だからさ、もっと笑おうよ。私も、一緒に笑っていたい。これからも一緒に遊びたいし、おいしいものを食べに行こうよ」
そう言って、私の顔を見てくれました。
何と言って返事をしていいのか……
「…ごめん……ホントにごめん…」
思わず出た言葉がこれでした。どうしても、謝る言葉が先に出てきてしまうのです。
笑顔が少ない、いつもうしろ向き。
これは、別の「とある人」からも、ずっと言われている事でした。
だけど、今更、この性格を変えることもできない。張り付けたような笑顔は嫌だし、自分の気持ちには正直でいたい。
でも、それは「時と場合によって」「善し悪しになる」ということにもなりかねない……非常に難しいことだとも思うのです。
だけど………でも……
Cちゃんは続けてくれました。
「ほら、またそうやって謝る(笑)そうじゃないんだよ。怒っているわけじゃないんだから。せっかくの御縁、大事にしたいじゃない?ね?だから、もっと笑って?」
嬉しかった。素直に、とても嬉しかった。
こんなことを私に、こんな私にも言ってくれる人が、複数もいるということに。
「すぐには難しいことかもしれない。ゆっくりでいいんだよ」
「うん……うん…」
また泣いてしまった私。
これは、今でも課題のひとつ。
人付き合いのド下手加減はもう、治せないとは思うけれど、でも…うん。
Cちゃん(と旦那さん)、Tさんたちとは、今でも何かと連絡を取り合い、遊びに行くことも多いです(ご時世的にちょっと今は難しいけれどね)。
世の中にはいろんな人がいる。
世渡り下手の自分、器用ではない自分。
言葉足らずで、誤解をされやすい、敵を作りやすい性格。
今更、こんな自分を変えられるとは…思えないけれど、でも、少なくとも、私のことを思って、話しをしてくれたCちゃんには、今も感謝している。
生きて行くって、難しい。
でも、この病気になって、危険な状態になる前に生命を繋いでもらったからには、もう少し、まともに……前を向いて、顔をあげて行かないといけないのかもしれません。
人それぞれだと思いますが……
3年半、経った今でも……悔いが残ることが多い生き方。
自分が選んだ生き方に、揺らぎを覚えることも増えたのかなぁ。
それとも、そういう年齢、そういう時期なのかもしれません。
(続きます)
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