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抗がん剤投与「完了後」のあれこれ、その3。
Sちゃんは、私よりひと周り以上、年下の女性。
私の故郷でもある市で、広報誌や地元イベントの取材や、もともとの趣味であったカメラ撮影も活かしたお仕事をしている。あと、フルマラソンに何度も出走している(この当時、月に1~2度は走っていたなぁ)という、スポーツウーマンで、とにかくパワフルな子だ。
私が療養中に、3回ほど、一緒にお出かけしたのだが、まずは、1回目のお話しをしたいと思う。
生まれも育ちも、現在もずっと、地元に暮らしているSちゃん。私がここを離れてからの知人だが、なにかと連絡をとっている間柄である。
この日、彼女が最初に連れて行ってくれたのが、老齢のさくら。
地元には、「日本さくらの名所百選」に選ばれた公園があるくらい、さくらが咲く地域でもある。市内のあちこちに銘木と言われる木々があり、そのうちのひとつに連れて行ってくれた。
「お~……」
かなり樹齢を重ねているさくらだが、この年の大雪で枝が折れてしまったという。その跡が幹に残っている。が、見事に花を咲かせてくれていた。
「いいねぇ…綺麗だねぇ…」
どっしりと構えた感じが、何とも言えない雰囲気を醸していて、この日は冷たい空気ながらも、青空だったので、これまた綺麗に映えるのだ。
さくらのそばでは、ご近所さんがテントを設営してくれていて、お茶とお菓子、自家製お漬物などを出してくださる(無料なんだよ、これが)。まぁ、うちの地元では「ごくふつうの」光景。
昔から、地元では自家製のお漬物や料理を持ち寄って、ひたすらしゃべって過ごすという風習があって、それが今でも細々と続いている(時節柄、今はできないだろうなぁ…)。
この日は、平日昼間だったけれど、県外ナンバーのクルマもちらほら、大型二輪でやってくる人もいて、絶好の撮影日和でもあり、みなさん、スマホや一眼レフ、コンパクトカメラなどで思い思いに撮影し、お茶菓子や名物総菜、お漬物などをつまみながら、地元の人たちと話しをしている。
いい光景なんだわ、これがまた。
地元の穴場スポットをご近所さんが教えてくれたり、その場で知り合った人たち同士で、情報を共有し、アナログ地図やタブレット地図などで場所を確認、大型二輪で来ていたおふたり(県外ナンバーでした)、大喜びで、
「ありがとうございます!今から行ってみます!」
「ごちそうさまでした!また来年も、絶対にここに来ますね!」
と言って、元気に出発していくのを、地元のおじちゃんたちが、
「気ぃつけてなぁ」
と、お見送りするとか。ホント、いいなぁとしみじみ。
故郷を離れて10数年。私は訳ありで、故郷を離れた年齢が遅いのだが、この時、改めて思ったのが、
「あー、うちの故郷っていいなぁ。地元っていいなぁ」
ということだ。
それから、Sちゃんが予約をしてくれたというお店へ。
お店と言っても、ふつうの民家。完全予約制のお店で、彼女も取材で何度か訪れていて、お店の店主さん(女性です)ともなじみだという。
地元で採れた野菜・果物を使ったランチコースを、彼女は予約してくれたのだ。
これがまた、ボリューム満載(笑)抗がん剤治療中、食べられる分量が少ない時期だったので、大丈夫かなって思ったんだけれど、これが…心配なかったんだよね~。なんと、Sちゃんは店主さんに事前に相談してくれていたらしく、私の体調を気遣ってくれたメニューと分量を出してくださった。
もう、これだけで幸せ。
サラダのドレッシングも店主さん手作り。たっぷりの葉物野菜に、あっさりしているけれどコクのある醤油ドレッシングが、むっちゃおいしくて…
「おいしい!」
食べ物をおいしく食べられるシアワセというのは、この病気を通して、改めて感じたことのひとつ。
抗がん剤による手指の痺れもちゃんと考慮されていて、スプーンで食べられるように、色々工夫をしてくださっていたのにも大感激。
ゆっくり、時間をかけていただいて、すっかりおなか一杯になった。
最後に〆のデザートで、バニラアイスが出されたのだけれど、これは店主さんの娘さんが作っているそうな。この娘さんが、Sちゃんとは「ラン仲間」なのだ。
そして、店主さんは某企業で長年、管理栄養士をしていた方だそう。だから、お店の料理も、経験と知識、実績がなせる業なのである。なるほど、そういうことか~と納得したよ。
「あー、しあわせー♪おいしかったです!ごちそうさまでした!」
身体に優しい、おいしいお料理、大満足。
帰りの車の中で、Sちゃんに改めてお礼を言うと、
「いいんですよ~。だって、実際に話しをしてみないとわからないことって多いじゃないですか(笑)久しぶりに会えて、嬉しかったですよ。おいしそうに食べてくれているのを見て、こっちまで嬉しくなっちゃった」
と、返事をしてくれた。
彼女も、過去にちょっと……色々あったことは、ちらと聞いている。
そういったことを乗り越え、今の明るい彼女がいるんだろうなとも、ステアリングをとる横顔を見て思ったりもした。
帰宅して、このお店のことを母に話すと、店主さんは、母もよく知っている人だとのこと。お店にも何度か、行ったことがあるらしい。
あらま(笑)
Sちゃんとの話は、もうひとつ、書きたいことがあるのだが、それはまた次回以降に…ということにさせて欲しい。
さて、話はまた別の日に飛ぶ。
梅雨も明けて、ものすごい暑い日が続くようになった頃の話し。
とにかくその日も猛暑日。エアコンと扇風機を併用して、室内を一定の温度まで下げて、それを保つようにしているのだが、とーにかく暑い日。
なんだか身体に違和感を覚えた。
「あれ…?これって……」
じわじわっと身体の奥から、痛みが出てくる。下腹部というか、もともと、子宮があった位置のあたりからじわじわっと……
「あー、きたなぁ、これ……っ」
そのまま、おふとんの上に転がる。
「きたきた……いててててててて…っ」
そのうちに、全身に嫌な汗が浮いてくる。身体をぎゅーっと丸くして、痛みに耐えようとするのだが、身体の奥からくる痛みは治まる気配はない。一度、この痛みが始まると、落ち着くまでに20~30分弱、この状況が続くことがある。これは、もう、がん発覚前から、年に数度はあること。もちろん、A先生には話しをしてある。
頭のてっぺんからつま先まで、全身、汗びっしょり。髪の毛、着ているシャツまでぐしゃぐしゃになるくらいだ。嫌な冷や汗。そばにあったタオルで顔の汗を拭きながら、痛みが去っていくのを待つしかない。
そのうちに、着ているものを全部、脱ぐことにもなる。とにかく、身体をしばりつけているものが鬱陶しくなる。ラクになるには、服を脱ぐこともひとつの対処療法だ。
「ふううううう……ぅぅぅっ……」
痛い……身体の芯から痛い。
どれくらい経ったか、ようやく、痛みが治まり、汗も少しずつひいてくれる。
汗を拭きとり、そのままシャワーを浴びて、着替えようとしたのだが、また痛みが来る。さっきよりは、ずっとラクなのだが、なんだか目も廻る。呼吸も少し荒いな…なんか、落ち着かない。
「これ、まずいわ…電話……先生に連絡、しなきゃ……」
病院に連絡、すぐにおいでと看護師さんが言ってくださったので、タクシー会社にも連絡。やっとの思いで着替え終わって、必要なものを持って病院へ向かった。
病院の正面入口に、婦人科外来の看護師さんの姿があった。心配して、玄関まで来てくださったらしい。
「カナデさん!」
「す、すみません……ちょっと…しんどい、です…」
用意してくれた院内用車いすに乗って、そのまま総合受付で手続きを済ませると、すぐに婦人科外来の処置室へ通してもらった。この日は、A先生はお休みで留守。手術入院の時にもお世話になったS先生がいてくださった。
脈拍、血圧などを測定。かなり低い数値をたたき出した。
パニック状態になっていた私だが、酸素マスクをつけて、しばらくすると、痛みも呼吸の苦しさも少しずつ引いていく。そのまま、しばらく眠ってしまったみたい。
どれくらい経ったか、目を開けると、S先生がいてくれた。
気づけば、点滴も入っていた。
「お、顔色も、さっきよりよくなったね。血圧も正常値に戻ってるし、もう大丈夫。ラクになったでしょ?」
「…はい……ありがとうございます」
カルテを読んでくれていたのだろう、S先生は、
「これね、抗がん剤の強さと、この暑さと疲れと精神的なものが相俟って、パニックになっていて、それで、いつもの例の痛みもきちゃったから…」
と、言ってくださった。
点滴が終わってから、ようやく、起き上がれた。あ、大丈夫、めまいもない。いつもの、手足の痺れだけだ。
「カナデさん、精神的なストレス、かかってないか?」
「精神的な…?」
「そう。ココロと身体ってちゃんと、関係があるんだよ。繋がっているんだ」
精神的な負担…うむむむ……この療養中、かなり自分を甘やかしていると思っているんだけれどなぁ。
「自分のココロにカギをかけてはダメだよ」
「……はい」
これはA先生にも、違うカタチで言われている気がする。
そして、心理士のKさんにも……
これは、私にとっての「永遠の課題」。
人との距離をうまくとることが出来ず、踏み込み過ぎたり、逆に遠慮し過ぎて疎遠になったり……とか。ほかにも色々。話し始めるとキリがない。
「変な子ねぇ」
って、言われた回数も数知れず。
でもね……やっぱり、難しいんだよ。ココロの障害とまでは言わないが、人と接することが、ものすごい「ド下手」なんだ、自分。
だから……今になっても、どうしても越えられない「とあること」がある。
理解してもらえない、うまく説明が出来ない…謝りたい、会いたい。会って、きちんとアタマを下げたい……そう思うことがある。
それは、自分にとっては、大事なことなのだけれど、ね……未だに解決するに至ってはいない、大事なこと……
病院から帰宅して、家事を済ませて、薬を飲んで、ふたたびおふとんに転がる。
なんだかなぁ…自分……今回の病気で、色々……自分自身のことを、見つめ直す機会を与えられている気がする。
生きていることそのものが、不器用なんだな……
「ココロにカギをかけちゃダメだよ」
この言葉の意味は、数年経った今でも、ずっと、考えている。
(続きます)
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