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新たな病気、発覚。
療養中のお話しシリーズ。
今回は、少し時間を進ませて、抗がん剤治療終了後、1年ほど経った頃に判明したお話しです。
「痒いな~…」
実家に戻っていた時のこと。少し気温が高くなっていた時期で、蚊に刺されたところが、ものすごい勢いで腫れてきた。抗がん剤の副作用のひとつなんだけれどね。肩の後方から背中にかけて、えっらいことになってしまった。
かゆみ止めを母がぬりぬりしてくれたのだが、それにしても異常な痒さ。夜も眠れないくらいで、痒くて仕方ない。
「あんた、これ、先生に相談したほうがいいんじゃない?」
と、母も心配してくれた。うん、私もそう思った。
次の再診日にA先生に相談してみよう……
「うわ、ひどいな、これは」
再診日、A先生に診てもらったんだが……全身に、かゆみが拡がってしまっていた。それまでにも、かゆみ止めを出してもらっていたんだが(服用するんだけれど、眠くなるんだよね)、それでは間に合わなくなってきたのだ。
「これは皮膚科で診てもらったほうがいいか…今、連絡とってみるね」
と、すぐに電子カルテに入力してから、院内連絡用電話で皮膚科外来の先生に連絡をとってくれた。
幸い、了解を得られたので、A先生は、
「H先生ね。今、連絡取ったから、まずは診てもらってください。そのあとに、またここに戻ってきてくださいね」
「はい」
そのまま、婦人科外来の中待合室を出る……と、目の前が皮膚科外来なのだ(笑)すごいラク。
皮膚科外来の受付で名前を言ってから、長椅子に座っていると、すぐに呼ばれた。
「こんにちわ。Hです」
「カナデです。よろしくお願いします」
男性医師のH先生だ。H先生は、すぐに電子カルテを立ち上げて、A先生からの所見を読んでくれて、その後、背中や太ももなどを診てくださった。
「こりゃあ、蕁麻疹ですねぇ、典型的な蕁麻疹」
「あー、やっぱりそうなんだ…」
「抗がん剤の副作用っていうのももちろんあるんですけれど。これは薬の飲み合わせもちょっと考えないといけませんね。かなりひどいな、これは。きつかったでしょう?」
「ええ、正直…かなりきつかったです」
この当時、まだ抗がん剤関連の薬を飲んでいたので(2種類+1…)、それらを色々と考えてくださったみたい。その後、再度、A先生のところへ戻り、電子カルテを読んだA先生は、
「ああ、やっぱりそうでしたか」
「仕方ないとはわかっていますが、やっぱりなんか、悔しい…」
と、私がボヤいたのを、先生はちょっと苦笑いして聞いてくれていた。
これが、もうひとつの病気の発覚のそもそもの「きっかけ」。
蕁麻疹はその後、慢性蕁麻疹になってしまい(涙)、今も時々、不意にやってくる痒みがあって、軟膏を処方してもらっている。本当は、もんのすごいよく効く新薬があるそうなのだが、それが注射で価格が保険を使っても2万円近くするとかで(この当時、まだ新薬として新しく登録されたものでしたから、ジェネリックなんてありません)、さらにものすごーく痛みがあるそうなので、経済的な事情もあって……丁寧におことわりさせてもらった……
男性のH先生が、今の病院を退職され、新しく担当になったのは、同じイニシャルでも女性のH先生。外来での女性医師は初めてだったなぁ。
A先生の再診日と同じ日に皮膚科も受診していたのだが、そのH先生の再診・2回目の日、こんな話しをしてくれた。
同じ病院のとある科目で、ある治験をやっているとか。総合病院ということもあって、ランダムに人選してデータを集めるにはうってつけの環境でもあるわけで、時々、診療科目の垣根を越えて、治験の話しなどがやってくるらしい。報酬などはないが、データ収集して、それらがやがて医師たちの研究材料やデータに組み込まれていくという。
この病院にお世話になって半年とちょいが過ぎていた時だったし、手足の痺れはあってもだいぶ精神的には落ち着いていた時期でもあったので、その治験の内容を聞いてみた。
「睡眠時無呼吸症候群?」
「そう。いろんな診療科目で、患者さんにランダムにお声がけさせてもらっているんですよ」
睡眠時無呼吸症候群。
Sleep apnea syndrome=SAS(サス)と略称されることもある、最近の日本では比較的「ポピュラー」な疾患だ。
肥満体の人がなりやすいといわれているけれど、日本人の場合は決して、そうとは言い切れないそうで、顎・首などの骨格の問題、そのほかにも要因があるあるとかで、隠れSASという人も多いらしい。
今回は、簡易検査キットが自宅に送られてくるので、それを使って一晩、データを取って、そのデータを集めたいというのだ。
「これでもし、SASが判明すれば、そのまま治療へ移行するっていう話しにもなっているんですよ」
「へ~……」
「睡眠時無呼吸症候群の簡易検査も、そこそこお値段がするから、今回は治験だから、無料だし…」
で、私、考えた。病院の何かの役に立ちたいっていう、ちょっとした考えがあったのだ。だって、この病院で命を救ってもらったわけで……今も、きちんと診てもらっているから。ちょっとでもお役に立てれば、という気持ちから、私はその治験を受けることにした。
一旦、A先生のところへ診察へ行って、その話をすると、
「ああ、あれね。カナデさん、やってくれるの?」
「はい。せっかくですし、これも何かの縁だと思いまして」
すると、A先生はニコッと笑ってくれた。
「助かります。僕たちも、こういう仕事だから、診察や治療のほかにも、色々とね、やっているんですよ。なかなか治験はご理解いただけないこともあるけれどね」
「今回は、何かの役に立てばって思ったので……」
先生は、ニコニコと笑って、私を見てくれた。その笑顔が、これまたとても安心できるものだったので……私はなんとなくだが、受けることにしてよかったなと、この時は思ったのだった。
A先生の診察を終えて、一旦、会計を済ませると、ふたたび皮膚科の中待合室でH先生に声をかける。と、そこへやってきたのは、今回の治験を担当している部署の看護師さんだった。
今回の治験の趣旨、説明などを受けて、最後に署名。数日後に、病院名義で簡易検査キットが送られてくることになった。
数日後。
「ほへ~…なんか、特撮ヒーローの変身ブレスレットだな、こりゃ」
病院名義で送られてきた「精密機器」のシールがしっかり張られた簡易検査キットだった。箱を開けて、ちょっと笑ったけれど、本当におもちゃみたいな感じがしたからだ。
指先に酸素を計測するものを取り付け、心臓のあたり2箇所にもシールを張り付ける。それらがコードで繋がり、眠る直前に手につけたブレスレットのスイッチを入れて、一晩眠る。
朝、起きてから身体からそれをはずすと、自動的にスイッチが切れて、データはブレスレット内部にあるカードに蓄積されているんだそうだ。んで、再び、それを病院へ送り返す。次の皮膚科の再診日に、そのデータを診ることができるらしい。
本当に気軽に受けた治験なのだが……なのだが……
で、再診の日。
「これ、やっぱりちゃんとした検査、必要だと思います」
衝撃的なひとことをもらってしまった……
皮膚科のH先生が、解析されたデータを読んでくれて、難しい顔になってしまった。
すぐに呼吸器科へ連絡を取ってくれて、そのまま呼吸器科外来へ。
担当は、紺色のスクラブを着て、がっちりした体格に浅黒い肌が印象的な、見た目コワモテのI先生という男性医師。
「ん~…なるほど。確かにこれは精密検査、必要だな」
鼻から喉にかけての気道を診てくださったのだが、そこで判明したのは、私は同世代の女性と比べても、鼻から喉にかけての気道が狭いのだそうだ。
「頭痛とか、アタマが重くなるとか…頻繁にあるほうでしょう?」
と、I先生。
確かに私、子どもの頃から頭痛持ちで、朝、起きてぐったりするということもあるし、なかなか起きられないということもある。寝ても寝ても疲れが取れない、寝ていないというか……
あと、趣味でうたをうたうのだが、これも、呼吸のタイミングやブレスの量とかが、他の人と少し違うといわれたこともある(肺活量はあるんだけれどねぇ)。
「ああ、Aくん(A先生)のところで診てもらっているんだね。わかった。Aくんにも話しをしておくよ。これはこれで検査しましょう」
I先生、コワモテだけれど、話し方はとても穏やか。一瞬、ぶっきらぼうに見えるんだけれど、それはあくまでも外見だけ。
ちなみに、後日、外来治療センターのクラーク・Sさんから聞いた話によると、I先生は見た目そのまんまの「体育会系」で、フルマラソンにも出場するし、野球もサッカーも好きな、スポーツマンのドクターなんだって。
この病院、総合病院ということもあって、個性的なドクターが多いなぁ(笑)そして、みなさん、とてもいいドクターばかりで……ホント、私、運がいい。お医者様運がいいというのかしら。
精密検査は一晩、入院してのデータ採取。検査機器の空いている時期を探していると、およそ一か月後になっている。そこを抑えてもらった。
その日は、A先生の再診はなかったので、そのまま入院案内センターへ行くと、ありゃ。
「あれ?カナデさんじゃないの」
「あー、Tさん」
入院案内センターのクラーク、Tさん。この方に会うのも3回目。偶然にしては出来過ぎてる(笑)最初の入院、抗がん剤初回時の入院、そして今回の入院……ああ、3回目……(涙)
さらに時間をすっ飛ばして、検査入院の日。
着替えと洗面道具を入れて病院へ。検査の都合上、個室が割り当てられる。
呼吸器科・内科の入院フロアは2階。ちなみに、いつもの婦人科は4階。
今回の検査は、全身……額から手指、足首までありとあらゆる検査用のコードをくっつけられるため、この準備だけでも、看護師さんふたりがかりで30分ちょっとかかる。夕食は通常食で、でも、牛乳じゃなくてヨーグルトになっていた(ちゃんとカルテに記載されているのね~。一度、しっかりデータを入力してあるから)。
消灯時間直前(消灯時間は21時)に、看護師さんがやってきて最終チェック。全身コードだらけになって、おやすみなさ~い……
とはいうものの……眠れん。寝返りすら打てないんだから、全身コードだらけなんだもん……でも、持って行った導入剤を飲んで、とりあえず横になる。テレビを観ているうちに、すとんと寝落ちしたらしい。
翌朝、声を掛けられるまで、寝ていたようで……気づけば、朝7時。
ベッドの傍らにあったノートPCに繋がるコードはあまりの多さにひとまとめにされていて、それらをぼんやりと見ていたら、看護師さんが慌てて飛んできた。
「ごめんなさいね~!お顔のコードも外さないと、朝ごはんも食べられませんよね」
はい、その通りです(笑)
身体中に張られたコード・電極を外してもらって、ようやく身軽になった。ノートPCの下にはさらにデータ蓄積用のハコもあって、シャットダウンされるまでそのまま。
「でも、昨夜、何度か見に来たけれど、いびきはそれほど大きいとは思わなかったのよね……」
「ひとりもんだから、寝ていると気づかないものですしねぇ」
「そう。だから、ご家族がいないとかパートナーさんがいない人の、睡眠時無呼吸症候群って、なかなか発見が遅れてしまうのよね」
このあと、データは1か月ほどかけて専門の先生や担当者が解析してくれて、診断結果が出る。
ついでにいうと、検査入院費用も病院によって違うけれど、数万単位。まー、とにかく金銭的な部分は本当に苦しい状態が続く。
睡眠時無呼吸症候群のことをもう少し。
主に、こんな自覚症状などが出てくる(※個人差はあります)。
「就寝中の意識覚醒の短い反復、およびそれによる脳の不眠」
「昼間の傾眠傾向」
「抑うつ」
「頻回の中途覚醒」
「集中力の低下」
「睡眠時の無呼吸状態」
「夜間頻尿」
「起床時の頭痛、ぐったり感」
ほかにも、やたら大きないびきをかいていると思ったら、それがピタッと止まって、呼吸停止状態が続き、そのあとに再び、いびきをかく……を繰り返すということも(これは私、覚えがある。実家の母が私に対して言っていたのよね)。
判定方法なのだが、とあるクリニックの先生によれば、10秒以上呼吸が止まることが1時間に5回以上あれば睡眠時無呼吸症候群と診断されると説明しており、15回までなら軽度、30回までは中程度、30回以上となれば重症としているという。
そして、再診の日。
戦々恐々となり、I先生のところへ行くと、
「カナデさん、重症だわ、これ」
「……そうでしたか…」
私の場合、8時間睡眠中、1時間に10秒以上呼吸が止まる、もしくは低呼吸になる回数が40回近くあったらしい。げー、これって、ほとんど呼吸、止まっているってこと?
ここで、治療法の選択肢を2つ、出された。
ひとつめは、鼻から喉にかけての気道の拡張手術。
ふたつめは、CPAPによる(当面)継続的な治療。
I先生は、手術を勧めてきたが、さすがに金銭的な負担が大きすぎる。と、直後に先生が気づいた。
「あ、そうか…抗がん剤入っているから、手術しても傷口が治りづらいこともあるね…」
「あと…私、しゃべる仕事をしているというのもあるんです。今はお休みしていますが……」
「なるほどねぇ」
と、しばらく唸るI先生。
結局、ふたつめの「CPAPによる治療」を選択することになった。
が、総合病院故、患者数が多いことと、外来は午前診療、そして、私がこの病院での診療科目が3つ目になるということもあって、紹介状を書いていただくことになった(この病院、一日で受けられる科目は2科目までという制限がある。だから、1日で3つを受けるのはできないのだ)。
この病院の最寄駅から徒歩5分くらいのところにある、個人開業医。
「C先生って言ってね、自分もとてもお世話になっている呼吸器科の大先輩なの。このあたりの呼吸器内科じゃ、一番だと自分は思っているよ。カナデさんも家が近いから、通うにも楽だと思うし」
総合病院ならでわの、紹介システム。こうして、役割を分担していくんだね。
これまた分厚い紹介状と診断書が入った封筒をいただき、総合受付で会計を済ませてから、その日は帰宅した。
……この後の話しは、次回へ続きます……
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