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心療カウンセラーさんと私。
この章は、つい、先週のお話し……です。
私が通院している病院は総合病院で予約制になっています。とはいっても、総合病院なので、混みあっている……社会情勢的に、今は特に病院内も神経質というか、ピリピリしているのがわかります。
また、この病院は、新型コロナウイルス関連の検査も担当しているので(あ、こちらも完全予約制ね。検査は病院の一番奥にある、元・看護専門学校の建物で行っています)、それもあって、ホント、緊張感が漂っています。その中でも、医師・看護師の方々、クラークのみなさん、准看護師さん、病院を支える施設管理スタッフさんや清掃スタッフさん、医療ボランティアのみなさんは、私たち患者に気遣ってくださっています。
さてさて、毎月の再診の日。
病院前でバスを降りて、正面玄関で手指の消毒をしっかり済ませて(体温は事前に自宅で計測してきて、申告します。もちろん、院内でもしっかり検温しますよ)、総合受付の片隅にある予約機に行こうとしたら……
「カナデさん?カナデさん!」
と、声を掛けられました。
この病院で、私に声をかけるとすれば、外来治療センターのクラークさんや看護師さんくらいなのですけれど……名前を呼ばれて顔を上げれば、そこにいたのは、白衣を着た、私と同じくらいの背丈の女性でした。
「え?あ、あれ??」
「心療カウンセラーのKです!」
「あ……あああああっ!!!!Kさん!!」
そう、私を呼んでくださったのは、心療カウンセラーの女性、Kさんだったのです。
「うわあああ、お久しぶりです!」
「よかったあぁ、カナデさんに会えて~!」
Kさんに会うのは、実はおよそ10か月ぶり。3月に父が亡くなる前に一度、お話しを聞いてもらったくらい……かな。ちょっとした「行き違い」があって、私はKさんは、もうこの病院にはいないのかしら…と思っていたのです。
「え、今日は?」
「はい、いつものA先生の再診です」
「今から?」
「はい」
「ずっと気になっていたんですよ~。カナデさん、どうしているかなって思っていて……お会いしたかったんですよ、いや、ホントに!」
Kさんの言葉に、私、じわっと涙が出てしまった……私も、Kさんに会いたくて会いたくて……話しを聞いてもらいたくて仕方なかったのも事実なのです。Kさんは、ちらっと腕時計を見て、
「今日、時間はあります?」
と、言ってくださいました。この時点で、9:00-AM。私は即答しました。
「はい!っていうか、Kさんとお話ししたいって思っていたので…ぜひ!」
「OK。じゃ、A先生の診察終わったら、内科のクラークに声をかけてください。私も大丈夫だから。お話ししましょう!」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「じゃ、またあとで!」
Kさんはそう言うと、小走りに総合受付の奥へ。
私も予約機からその日の予定表を引っ張り出して、婦人科外来へ向かいました。
今年初めての診察。クラークのIさんにもご挨拶して、5分くらいで名前を呼ばれました。診察室へ入ると、がっちりと飛沫感染防護策をとられているA先生と看護師さんがいました。メガネとマスク。フェイスシールドはしていませんけれど……一時、病院のマスクや防護メガネなど、必要なモノが不足して、大問題になったことも聞いています(全国的にも問題になっていた頃の話しです)が、今はようやく、安定して供給されているとか。ホント、よかった……(備品管理担当部署の厳しい目が光っているらしいですけれどね)。
「おはようございます。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ。カナデさん、真面目に通ってくれているから、本当に助かりますよ」
いつもの笑顔。あー、ホントに安心できる。ありがたいです。
いつものように体調などを話します。あとは、勤務先での新型コロナウイルス感染者がまた出てしまったなどの話し。来月の予約をしてから、
「これから、Kさんにお会いするんですよ」
というと、
「ああ、Kさん。僕もそういえば、最近、会ってないなぁ」
「同じ病院でも、そういうものなんですねぇ」
「うん、そうなんだよ」
まぁ、Kさんはほぼ、全診療科目に関わっていて、外来だけじゃなくて、病院内全部を飛び回っているはずですからねぇ……
「では、また来月に」
と、あいさつをして、クラークのIさんに申し出てから、総合受付でお会計を済ませます。今は、病院の会計システムも随分変わって、半自動化されているんですよね。
この病院では、半自動化されたのは、去年のこと。
実家で、父が入院していた地元の総合病院では、比較的早く、半自動化されていて、私も帰省して父を見舞った時に見た、同じ機械が導入されています。
「さて、と……」
伝票と来月の予約票をバッグにしまい込んでから、ふたたび、来た廊下を戻ります。その前に、自販機でミネラルウォーターをゲット。病院の中、乾燥しているし、これからしゃべる予定なので(笑)
内科の外来診察室は、婦人科外来の手前、右側にあります。内科が一番多く診察室を持っているんじゃないかな、ここって。
内科のクラークさんにお声がけして、しばらく待っていると、Kさんが来てくれました。
「お待たせしました。今日も無事でした?」
「はい。おかげさまで。でも、本当にいいんですか?」
「うん。今日は午前中、特に予約が入っていないんですよ。こういうのってめずらしいんです」
ふたりで外来棟の中を歩きます。で、私、気になっていた。
「ねぇ、Kさん、今日、患者さんの数、少なくないですか?」
平日、週末……つまり、金曜日。総合病院故に、予約診察は午前中だけ(科目によりますが)なのですけれど……なんだか、いつもより、ずっと病院の中が静かで、待っている患者さんの数、明らかに少ないのです。
「そう!2度目の緊急事態宣言が出てから、今日が一番、人が少ないかも」
と、Kさんもお返事してくれます。ああ、やっぱりね。
Kさんのお仕事部屋は、中央採血室の目の前にあります。ここに来るのも久しぶり。中央採血室に行くことはあっても、なかなか、Kさんに会わない…これも、私が遠慮をしていた一因なんですよね。
デスクを挟んで向き合って、何気ない話しから始まります。
父が亡くなったこと、ふだんの生活、仕事のこと、生活のこと、趣味のこと、実家のこと、数少ない友人たちのこと……
取り留めもない話をしていきます。とにかく、しゃべる。順番はぐちゃぐちゃになるけれど、でも、Kさんはそれらをノートに書き留めながら、頷いたり笑ったりしてくれます。ほとんど、雑談です(笑)でも、この時間が私には、本当に貴重。ありがたい。
Kさんは、お仕事柄もあるのでしょうが、聞き上手の話し上手、そして、私の話すことに、決して、否定の言葉を出すことというのがありません。が、ご自分の意見や、私に対して思った、率直な意見を、きちんと話してくださいます。
え?これが、治療なのかって?
そう、不思議に思うでしょ?
でも、これは……心療内科に一度でもかかったことのある人だったら、わかってもらえる部分もあるんじゃないのかなあ。
ずっと、鬱屈した気持ちを抱えていて……過去に、病気とは別のところで、心身ともに「壊れた」経験がある私にとって、
「話しを聞いてくれる人」
というのは、非常に貴重な人……なのです。
別の心療内科に通院していたこともありますが(通院していた病院も、いい先生だったんですよ、ええ)、がんに罹患し、今の総合病院に通うようになってからは、Kさんのところに話しにくるようになりました。
私、かなり「偏屈」で「変わり者」。そういうレッテルを周囲から貼られているのは、自分でも理解しています。人と接することが「ド下手」で、人との距離を取ることも「ものすごい下手」な部類に入るので……時々、どうしていいのかわからなくなってしまうのです。
一番最初に、Kさんにお会いしたのは、過去の本文にも書いていますが(『抗がん剤投与5回目と、心理カウンセリング』の章)、抗がん剤治療中の、がん患者サロンでのことでした。ほかの参加者の方々がお帰りになられた後でも、椅子から立ち上がらず、ボケッとしていた私に、Kさんがお声をかけてくださった。その時に、ずっと抑え込んでいた気持ちを吐露して、泣き出した私の膝に、そっと手を置いて、ずっと聞いてくれていたKさん。
Kさんは、この総合病院に入院している患者さんはもちろん、通院している患者さんやそのご家族に対しての「ココロのケア」を担当している心療カウンセラーさん(病院によって呼び名は色々あると思います)。
ふだんは、内科の外来診察室にいることが多いとか。また、彼女は「非常勤」なので、基本的には、事前に予約が必要です。ちなみに、話しを聞いていただく分には診察料は発生しません。あまり詳しいことは聞いていませんが……これには驚いてしまった(もちろん、この病院に通院している人に限ります)。
「大学で興味を持った、人のココロと病気の関係を勉強していたら面白くなっちゃって、で、医療心理カウンセラーの資格、取っちゃいました」
と、話してくれたことがあります。
朗らかで、いい笑顔で……医療関係者の人たちって、本当にすごいなっていつも思っていますが、Kさんもそんな中のおひとりです。
同じ女性ということもあって、私は安心している面もあると思います。
ひたすら、話す……気づけば軽く1時間半は過ぎています(笑)
「よかった、今日、カナデさんに会えて。ずっと気になっていて…」
「あ、でも、よくあのモコモコ状態(かなりしっかり、防寒対策をとっています)の私がわかりましたね」
「いや、だからですよ(笑)だって、カナデさんのファッションスタイルって、他の患者さんには決して、ないものですもん」
で、お互いに声を出して大笑い。
ああ、やっぱり、私の服装って……エスニックファッションって目立つんだねぇ(笑)だけど、それをちゃんと知っていてくれる、覚えていてくれる……何百人といる患者さんの中から、確実に私を見つけて、名前を呼んでくれる、そのことが、私にはとても嬉しかったのです。
「私は、ずーっとこの病院にいますよ。だから、またお話しに来てください。遠慮なんていらないから。連絡さえ下されば大丈夫ですよ。むしろ、カナデさんの話しを聞いていると、こっちも楽しいです。友人みたいな感じで」
「はい。ありがとうございます。よかったぁ……そう言ってもらえると、気が楽になります。また来ます、必ず」
「大丈夫ですって、私、ここ(病院)にいますから」
そう言って、Kさんは、ポンと肩を叩いてくれました。
また時間を見計らって、Kさんのところへ行こう。
私が通院している病院って……総合病院のはず。
だけど、患者ひとりひとりに対する気持ちが、とても真摯だと、患者サイドからして、思っています。
Kさんを見ていると、大好きなコミックスを思い出します。
それが、ドラマ化された『アンサングシンデレラ』。
そして、もうひとつが『19番目のカルテ』。
『アンサングシンデレラ』は、病院薬剤師のお話しで、『19番目のカルテ』は、総合診療医のお話しです(奇しくも、両方とも「コミックゼノン」で連載されています)。
ちなみに、『アンサングシンデレラ』は、ドラマより原作のコミックスがオススメ。ドラマはかなりテレビ版にアレンジされていますので、病院薬剤師がどのようにして患者やドクター、看護師たちに関わっていくのかというのは、あまり深く描かれていない気がする……展開早すぎたし……(私はあまりテレビドラマは観ないのですが、好きなマンガですから、見てみるかと思っていたのですけれど、2話で挫折しました。理由は言わずもがな、です)。
『19番目のカルテ』は、最近、見直されてきている…というか、新設されているところも多い、総合診療医のお話しで、これはどちらかというと心療内科的な部分も大きいかもしれないです。地味なマンガではありますが、とても丁寧に描かれていて、読み応えありますよ。
もし、ご興味ありましたら、お手に取ってみてください。
『19番目のカルテ』は、ウェブでも読むことが出来ます。
(続きまーす!)
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