仕事復帰。その1。

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仕事復帰。その1。

2017年9月に入った頃。 そろそろ、仕事への復帰も考えないとならないな…と、思っていた私。 でも、まだ体調は不安定で精神的にも不安だらけ。できれば、年末までには復帰したいと考えていた。 7月に営業担当と会った時も、少し考えていたけれど、あえてそこは口にせずにいたのだが(この時は、勤務先と派遣元も、夏の盛りが過ぎてから考えましょうということを暗に言っていた気がする)。 少し考える。 「やっぱり、先生に相談しないといけないよなぁ」 というわけで、A先生のところへ再診に行ったときに、仕事復帰への相談をすることにした。 「え?仕事復帰ですか?」 再診日、血液検査を終えてから、いつもの婦人科外来診察室に入ると、A先生は私の話しを聞いて、ちょっと目を丸くした。 「そろそろ考えないと、と思いまして。生活もかかっていますし…」 と、最後のほうはぼそぼそっと、呟くように話す私。先生はしばらく、電子カルテを見てから、ちょっと唸ると、 「確かに生活もありますからねぇ。いつ頃を考えていますか?」 「一応、10月には、と思っています。先生からの許可が出ないと、派遣元にも話しができないと思いまして」 すると、ニコッと笑ったA先生。いつもの血液検査の結果をプリントアウトしてくれながら、話しを続けてくれる。 「そうですね。確かに。そうなると…最初からフルタイムというのはダメですからね」 あ、そうですね、やっぱりそうなりますよね、ええ。最初からそれは考えておりませんので、大丈夫です……っていうか、無理ですよ、今の体調じゃ。 手足の痺れ、麻痺、疲れやすい。そもそも、長時間、座っていられる自信がない。仕事柄、かなり集中力のいる仕事でもあるし…… 勤務時間と曜日を考慮、ダメだと思ったら休む、無理をしない。そのあたりは自分自身と相談する。 「まずは、体調優先ですからね。あと、毎月、ここ(病院)に来ることも続けてください。まぁ、カナデさんだったらそのあたりは問題はないでしょうが」 「ええ、そこはもう(笑)」 よかった。 「仕事を始めても、それがストレスにならないようにしてくださいね」 「…はい」 このあたりの「加減」というのが、私には未だにわからない……うむむ… でも、とりあえず、主治医からのお許しが出たことになる。 さて、今度は、派遣元に連絡しないと。 派遣元にメールすると、担当のTさんからお返事が来た。その数日後、電話での打ち合わせをすることになる。 「それじゃ、お医者様からはお許しをいただいたと」 「はい。まぁ、無理をしないことという条件付ですが」 「それはこちらも、無理はさせませんよ(笑)」 電話の向こうで、コロコロとTさんが笑う。なんか、嬉しかった。  勤務先との調整を、Tさんが真ん中に立ってやってくださる。  仕事復帰は10月アタマ。  曜日限定・時短勤務(午後出社)。ただし、復帰初日は、勤務先の都合もあるので、9:00-AMに出勤(※24時間365日稼動の仕事なので、勤務形態・時間は色々あるのです)、その後は調整した時間での勤務。  最初からかっ飛ばすと、ろくなことがないのは自分でも理解しているし、A先生からもしっかり、釘を刺されているので、ダメだと思ったら早退、もしくは休むこと。  勤務先も派遣元、私自身も、これらを踏まえた上で、仕事再開ということになった。  9月半ばのある日、お買いものへ。  勤務先は私服。多少の規制はあるけれど、基本、自由。で、今まで着ていた服が大きすぎる(当時、ね)こともあって、少し新しい服を買っておいたほうがいいなと思ったのだ。  無地のシャツ、レギンス、靴下など数点。  そして、靴。相変わらず足の裏の麻痺もあるので(杖をついて仕事へ行くことは、最初からわかっていたし)、靴底が柔らかく、なおかつ、歩きやすいものを探していたのだが、某スポーツシューズメーカーが出しているウォーキング用シューズが、それにぴったり当てはまった。少し値は張るが、しっかりした靴は必要だと思ったからね。自分の身体のためだ。 「ひさしぶりだな~…」 仕事用の服は、大抵、UNIQLOで済ませていたが、身体の不調とともにサイズがエラいことになったため、しばらく遠ざかっていたんだよなぁ。ひさしぶりに、UNIQLOへ足を運んだよ。ついでなので、アンダーウェアも数点購入。  実家の母にも、仕事復帰の件を話した。  そして、10月3日の朝。  仕事用の服に袖を通し、IDカードを通勤用のカバンに入れて背負う。かばんには「ヘルプマーク」がついている。このヘルプマーク、もらうことに少し躊躇していたのだが、抗がん剤治療中に、看護師のYさんが、 「遠慮なく持っていたほうがいいよ。万が一を考えれば」 とアドバイスをしてくださったこともあり、住んでいる区の福祉課へ行ってもらってきた。  新しくした医療用キャップ(まだ、ほぼスキンヘッド状態なので、許可をもらって、しばらくは仕事中でも被っていられるようにしてもらった)をかぶり、杖を手にして家を出た。  通勤用定期を購入したのも久しぶりだ。  恐る恐る乗った電車。朝の通勤ラッシュ時の電車に乗るのも、むちゃくちゃ久しぶりだったが、優先席を選択して乗る。これも遠慮があったのだが……でも、まぁ、優先席でも譲ってくれるとは限らんけれど(このことについては、また次回以降に)。  勤務先の最寄駅から、てくてく歩く。この時の私の歩くスピードでは、10分少々かかる道のり。オフィス街の中を歩く。久しぶりの通勤。前と違うのは、杖を突いていること、荷物を背負っていること。  途中で第一京浜を横断して、小さな橋を渡って、やがて見えてくるのは、白いビル。1階は、仕事先の車輛が出入りする場所であり、お客様用エントランス、傍らには職員(従業員)用のドアがある。 「あれ?Tさん」 エントランスで、派遣元担当のTさんが待っていてくれた。復帰初日ということで、ご挨拶も兼ねてのことだったのだが、Tさんのとなりにはもうひとり、女性がいた。 「おはようございます、この夏から私と一緒に担当している、Kです」 瞳の大きな、ちょっと和風な感じがするかわいい女性だ。名刺をみると、Tさんと同じグループの所属で、今は主にKさんが現場に来てくれているらしい。  とりあえず、私はロッカーで荷物を置いて、仕事の書類などが入ったバッグを取り出す。  めちゃくちゃ久しぶり。  TさんとKさん、私の3人で、部署へ行くと、主任のAさんがすぐに気づいてくれた。 「おはようございます。Aさん、お久しぶりです。長い間、お休みさせてもらって…ありがとうございました」 「待ってましたよ~。おかえりなさい」 「無事に命を繋いでもらって……戻りました」 そう言うと、Aさん、ちょっと目のあたりが潤ませてくれた。あらら。  Aさんにお会いするのは、休職する前日以来のこと。あれから一度もお会いしていないことになる(私は休職中に2度、部署に顔を出しているのだが、2度ともお会いできていなかったのだ)。  TさんとKさんも、私の今後のことをAさんと簡単に打ち合わせしてから、部署を後にされた。 「無理はさせないし、無理しちゃダメですよ。自分の身体が最優先ですからね」 と、Aさん。ありがたい。本当にありがたいお話しだ。  で、まずは今後のこと。そこへ、同じく、職員のIさんがやってきて、まずは復帰のご挨拶。それから、私が話しをしておくこと(しばらくは残業不可ということも含めて色々。一応、事前にTさんを通じて、Aさんには話しをしてあるのだが)や、私がいない間に変わったいくつかのことを話してくれる。  仕事の内容は変わらないのだが、細かい部分が不規則に変わってきているらしく(まぁ日々、変わっていくんだけれどね)、あとで電子掲示板を読んでおいてねと言われた(おおよそ10か月半ほど……少しずつ読まないと追い付かない)。  まずは一週間、リハビリを兼ねて研修&受電再開。徐々に慣らしをしていくことになった。  いやー……久しぶりに仕事用PC、打ち込んだけれど、指先の痺れと痛みがかなり影響あるわ、これ。しかも、口もまわらん(薬の影響で、口のあたりにも、若干の痺れが出てきているのだ)。  私たちの仕事は、 「しゃべりながら(話しながら)」 「キーを打ち込みながら」 「データをみながら」 「お客様の状況を伺いながら」 ということを同時にこなさないとならない。アタマの中をフル回転させて、状況を思い浮かべながら、相手の様子を「声だけで」伺いながら……テレオペならではの、独特のスタイルだ。集中力もかなり必要。  しかも、私たちの場合は、一時的に、ではあるが、お客様の「命を一瞬だけでも預かる」仕事でもある。かなり気を遣う仕事でもあるのだ。  一様に「テレオペ」といっても、色々な職種があると思うけれど、その中でも私たちの仕事は、ちょっと変わったタイプに分類されると思う。  いやあ……しんどい、かなり、しんどいわ、これ……  改めてやってみると、かなりしんどい。  こんなことを、ずっとやっていたのか、私……  昼食の時間。 「う~……っ」 休憩室に入って、椅子に座った瞬間、ため息と声が同時に出てしまった。来る途中、コンビニに寄って買ってきた、ランチセットを前にしても、なかなか箸が進まない。でも、食べておかないと。 「あれ?カナデちゃん?!帰ってきたの?」 ふと顔を上げてみれば、同じ派遣元から来ている、Yさんがそこにいた。Yさんは、ちょっと年上の男性で、見た目はコワモテだけれど、とても優しい人で、同じ派遣元から来ている中でもベテラン勢に入る。 「あ、Yさん。おひさしぶりです。はい、今日から復帰です」 「おお……そうかそうか。よかったよ、本当に。おかえり。みんな、心配していたんだよ。急にいなくなっちゃうし、辞めたかと思えば、名簿にはカナデちゃんの名前は載ったままだし、かといってTさんに聞いても、教えてくれないしさぁ。少し痩せた?その帽子はどうしたの?」 見た目もそうだし、医療用帽子をかぶっているのも、まぁ、違和感あるだろうなぁ。あと……私は自分の病気のことを、聞かれたら、話しをしようと思っていた。だから、Yさんには、自分が実は……ということを話すと、彼は一瞬、黙ってしまったのだ。 「大丈夫なのか?」 「少しずつ慣らして行かないと、こっちも生活かかってますもん(笑)あと、Tさんも派遣先に話しをしてくれているし、Aさんからも、無理はさせないって言われています。しばらくは、リハビリ兼ねて時短、曜日限定勤務です」 「そうかぁ」 Yさんだけじゃない、職員のSさんやUさん、同期のKちゃんや先輩たち……みんな、私の姿を見て、一様に驚きながらも復帰を喜んでくれた(一部の人たちは別だけどねw)。  Iさんについてもらって、その日は研修終了。最後に数件、実際に受電して、感覚を取り戻すように試してみたが、うわああああ……(涙)  勤務時間終了。  1時間半の道のりを、ようやく帰宅。  荷物をほどいて、着替えてから、そのまま、床に座り込んでしまった。 「ふぃ~……」 なんにも食べる気が起きない……着替えるのがやっと。  よれよれと立ち上がり、冷凍庫の中に買い置きしてあった、バニラアイス(抗がん剤治療時からの、非常食のひとつ)を、なんとか食べる。 「……マジで疲れた…」 ようやくアイスを食べ終わってから、シャワーを浴びる気力もない。 「いいや、明日の朝にしよう……」  いや、本当に……こんなに疲れるとは思わなかった……  言葉にすると軽く感じてしまうが、ホンットに、本当に……ぐったり。  ……これを書いている今、思い出したら、ぐったりしてしまった……  あれから3年半経つけれど、未だに、復帰初日、帰宅してからの「ぐったり感」は、しっかりはっきり、おぼえております……                  (続きます)
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