ハルヲアタエル

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 送り主はなかなか手の込んだイタズラをする常習犯だった。  高1のときには、学校の駐輪場に止めていた私の自転車のカゴの前面に「防犯パトロール中」という黄色い札を勝手にはりつけられた。  高2のときには、シャーペンの芯のケースの中身にいたずらされていて、マジックで黒く塗られたそうめんが入っていた。  そして、極めつけは高3のときだった。本当は校則に反するからやってはいけないのだが、昼食後のに、さくらんぼ色のリップクリームを塗っていた。そのときの出来事だった。  ヤツは突然、 「岩佐さん、それは何ですか? 学校に持ってきていいものでしょうか? よくないものでしょうか? はい、そうです。よくないものですよね。校則で決まっていますからね。いいですか、岩佐さん。校則を守るのは基本です。何事も基本をおろそかにしてはいけません。あなたにとっては残念なことでしょうが、これは即刻没収とします」  聞き覚えのある平坦な口調で言い終えると、容赦なく私の手から買ったばかりのリップクリームを取り上げた。  そして、ヤツは、椅子に座ったまま、ぽかんとしている私を見おろして、 「念のためにつけ加えておきますが、私がこれを没収するのはあくまで校則に反するからであって、決して卑猥な意図などありません。この点に関しては非常に大事なところなので、しておきます。どうか誤解のないように」  教務主任の不気味なセリフをそっくりそのままなぞって言うと、あろうことか、机の上に置いてあった私のノートに、没収したリップを使って、「俺様の大好物である博多明太子」と称する物体を紙面一杯に描いたのだった。  おかげで新品同然だった私のリップは全滅した。
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