ハルヲアタエル

7/19
前へ
/19ページ
次へ
 2浪はしたくない。でも、志望校は変えたくない。  今日もまたいつものように、自分にそう言い聞かせて教材をひらく。  こんなストイックな生活があと8ヶ月近く続いていくのだ。2浪もしたら、この過酷な生活をもう1年送らなければならないのかと思うと、ぞっとしてしまう。けれども、この感覚が私を突き動かしてもいた。  ひたすら単語帳や語彙帳をぐるぐるとまわしてインプットを繰り返し、前日の復習をしつつ演習問題を解き、間違ったところをチェックして、抜けがないように下地を整えていく。基礎固めをすることによって、知識を定着させ、吸収したすべてを血肉にできるように努力は怠らない。基礎がしっかりと固まっていないと、いくら上積みをしてもすぐにガタがくる。脆弱な土地に家を建てるようなものだ。  浪人生になる前まではそのことに気づかず、ガタガタの道路をただ前だけ見て暴走しているようなものだった。だから受からなかったのだ。  ただ、敗因はわかっているものの、実際、基礎を固めていくための勉強というのはそう簡単なことではない。毎日毎日繰り返しているとダレてしまうときもあるのだが、それでも、この地道な作業の継続がおよそ8ヶ月後には実を結ぶはずだと信じることによって気を引き締め、ふたたび意欲を取り戻す。  あれだけ好きだったメイクの研究もアクセサリーの創作も、今は封印している、というよりも、正直ほとんど興味がなくなっていた。  受験勉強に励むこの時間というのは、人の一生のうちのほんのひとときに過ぎないが、けれども、人生を大きく左右するかもしれない貴重な時間でもある。だから1秒たりとも無駄にはできない。目的を達成できたら、いくらでも好きなことができるのだから、今はひたすら目の前に山積みになっている「なすべきこと」に集中するのみ。  私は不安になったときや迷いを生じたとき、あるいは、やる気がわかないときや集中力が続かないときにはいつでも、こんな言葉で自分を鼓舞してきたのだが、もしもこの先、何らかの誘惑に負けそうになったとき、果たして同じ方法が通用するのかと問われれば、はっきりとした答えを出すことができなかった……。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加