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僕は入学したその日、君を見つけた。
誰よりも際立って見えた。一見普通の、女の子。
君が、僕の仲間と出会ったその日、二人は派手に喧嘩した。
背丈も腕力も叶わないのに、仲間の頬につけた大層な紅葉跡に、僕は驚かされた。意地っ張りで負けず嫌い、猫かぶりで恋に臆病。喧嘩となると、大きな声で、怒りを露わに一歩も引かない。教室で、慎ましく微笑んでいるのがストレスなのか、発散するように声を張る。学校では目立たず大人しく、がモットーだった君からそれだけの怒りとエネルギーを引き出したのは、ただ一人、僕の仲間だった。僕は、その場に偶然立ち会っていた。
だからだろう。以来、君は僕にも遠慮をしなくなった。素顔を見せてくれた。一目惚れだった。中身を知って、もっと気持ちが膨らんでいった。
僕の仲間と、君は犬猿の仲みたいになっていった。息をするように言い争うし、暴力に訴えるし、素直に謝ることもあれば、機嫌が良い時は隣でにこやかにしている。君が僕以外に向けるその笑顔は、切ないほど、僕の胸中をかき乱した。
君は僕にもよく笑ってくれたし、懐いてくれたし、一緒に手を組んで、僕の仲間をぎゃふんと言わせよう、なんて、いたずらの共謀者に何度もされた。僕はそれを楽しんで、君の隣にいた。僕は君に夢中だったから、他の女の子に言い寄られるのは面倒だった。君に、恋人のふりをお願いしたのは、それが真実、願望だったからに他ならない。
冗談でごまかして、笑顔でうそぶいて、それでも君を大切にしたい気持ちは本当だった。
僕と、僕の仲間と、君という三角関係。
はじめは水面下の情景でしかなかった。
僕の仲間が、君を見つめるとき、その感情が手に取るように分かった。
ころころと変わる表情が、眩しい。君はそうやって、人を惹きつける女の子だから。本気で怒って、本気で笑う、僕の仲間へ向ける態度。険悪だった初対面の頃とはすっかり変わった部分が目立つ。恋に無自覚な二人を、いつしか冷静に見守っている自分がいた。
無自覚な君たちがうらめしい。
僕の仲間は、いつまでも無自覚のまま、いつか大きな壁となって、僕の前に立ちはだかるんだろう。そのまま気づくことなく過ぎてしまえばいい、なんて卑怯にも真剣に思うほど。君を誰かに奪われるのは、辛い。
僕の愛しい女の子。
僕も案外不器用で、何度も、気持ちを伝える機会は先延ばし、言わなくてもいい加減気づいて欲しいくらい、君の近くに居たつもりなんだけど。まさか、とうとう卒業の日を迎えるのだから、このままじゃやるせない。
君はいつも、僕じゃない誰かを見ている。
君は今の関係を気に入ってくれているみたいだから、壊すのは、結構勇気がいる。それでも、もうどうしようもないほど僕の気持ちは、君でいっぱいだから。僕には君しかいらない。卒業しても続く関係だとして、僕はもうこれ以上、先延ばしたりできないと、悟った。
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