夏の木漏れ日に

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   少し入り組んだ路地を抜けたその先は、公園の入り口につながる。路地と公園の入り口の間には少し距離があるので、路地を抜けた途端、夏の太陽の鋭い光に晒されるが、公園に入れば、敷地内に生える木立によって太陽の光も直接は注がれないため、まぶしさに支配されることはない。    そのまま、柔らかい光に包まれた道を進んで行くと、立ち並ぶ小高い木の枝葉によってできる、しっとりとした影が横たわる空間があり、そこに置かれたベンチに、恵一は腰を下ろした。  公園といっても、いくつもの散歩コースや、アスレチックなどの遊具群を備えた、市が管理運営する緑化地区であって、恵一の入っていった入り口のほど近くにあるそのベンチは、広い敷地の正面とされる入り口の反対に位置するので、人は滅多に来ない。  そういうわけで、自然の音や、漂う空気の息遣いに満ちた静謐なその場所で、恵一はいつものように本を手に取った。綴られた文字を目で追っていると、意志を持ったように息が鼻から抜けていく。その時、今日になって初めて息をしたな、と恵一は思った。
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