夏の木漏れ日に

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   時折風が通り過ぎていく。その時にできる、枝葉の隙間から差し込む木漏れ日が、恵一の読んでいるページを、まばらに照らす。印刷された文字が、その光に反射して、恵一の目に浮き出たように見えたその時、一瞬広くなった視界の端に、恵一は、いつもの風景に見慣れないものを捉えた。  それは、恵一の右手側を少し行ったところにある、休憩スペースに設置された自動販売機―――の前にいる子供だった。    普段、恵一のいるベンチの辺りに人が来ることはほとんどない。少なくとも、恵一がこの場所を訪れるようになってから人を見かけたのは、その休憩スペースの自動販売機の横にあるゴミ箱のごみを回収しに来た清掃員を見た、その一回限りである。だからこそ、見慣れた景色の中に、自分以外の存在を確認するという、いつもと異なる出来事に、恵一は意識を持っていかれた。  恵一のいるところは仄かに影になっているので、恵一は、自分の存在は気取られないだろうと思い、その子供に目を向けた。子供は、深々と帽子をかぶり、ぶかぶかの靴を履いて、何故か一心に自動販売機を覗き込んでいた。恵一は、横に置いたカバンの上にある、携帯の側面の電源ボタンを軽く押す。するとディスプレイに、10時45分と表示が映し出される。  親と来たのだろうか、と恵一は思った。だが、保護者らしき人物は近くにいない。背丈の様子から、小学校に上がる前か、小学生低学年ぐらいに見受けられる。小学生なら、この時間は学校にいるはずだが―。
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