夏の木漏れ日に

　子供は、自分の方に近づいてくる恵一の姿を見て、すぐに自動販売機の側面に身を隠した。恵一は平然を装いながら、自動販売機の前に立ち、並ぶ商品を見る。選ぶ素振りをしながら、ちらりと目を横にすると、子供も、自動販売機の影から恵一の様子をうかがっていた。だがその目は、恵一だけに注がれているというわけではなく、自動販売機を前にした恵一がどうするのかという行動に興味があるようで、そのことを感じた恵一は財布から小銭を手に取り、自動販売機の小銭の挿入口に入れ、ボタンを押した。

　機械音とともに、商品が取り出し口に転がる音がする。それを見て、子供は、声を出さないものの、驚きの表情を浮かべる。しかし今度は、耳としっぽは現れなかった。

　さっき見たのは、何かの錯覚だったのだろうか、そんなことを考えながら、恵一は取り出し口からペットボトルを取り、キャップを開けてひとくち、口に含む。その一連の動きも、子供は観察するように見つめていた。その視線を感じながら、恵一は手にした飲み物を軽く飲み、キャップを閉めると、おもむろに子供の方に顔を向け、声をかけた。