0人が本棚に入れています
本棚に追加
最近、キレイになった?シリーズ
制作:kaze to kumo club
最近、キレイになった?
シリーズ1
--夏の暑い月夜の出来事--
夏の暑い月夜。
仕事帰りの若い男、山崎道雄、23歳は家路を急いでいた。
早足に歩む彼の影を追う……不信な白いガウンの女。
フフフ……と付けたマスクが笑う。
彼のすぐ背後に近づき、低く、か細い声で……ささやき始めた。
「私……きれい……?」
振り返る若い男を驚かせようと、口元のマスクを外そうとする……女の白い指先が動く。
「大人ニキビが解決した? 君……?」
「はい?」
驚いた白いガウンの……女の手が止まる。
振り返った道雄は不満げな顔して、オドオドしてしまう女を見据えて言う。
「最近のホラー映画の世界はね。肌の状態まで、ハッキリと映し出すフルデジタルだからさ。見た目も十分に気を使わないといけないよ……君!」
右手を女の方へかざし、指先を左右に振る男は……真顔で語る。
「はあ……?」
「それだけではない! 肌の悩みが解決したのならば、次は……美肌にならなくてはいけないよ! 分かるかね、君……?」
「……はあ〜あ〜……」
途方に暮れる魔物の女は、返す言葉もない。
さらに道雄は得意げに、己れの弁術を披露する。
「恐怖はねえ……。女性を美しくするものだ! 滴る血も、腐った人肉も、闇の中で輝く君の……美しい白い肌にはかなわない!! それが、美的ホラーの真髄なのさ! 分かるかね 、君……??」
「…………」
眉を歪めつつも、何を言っているのか?……さっぱり分からない風の表情をする……魔物の女は……ひとり首を傾げてみる。
そんな女の姿を見るや……何かを思い立ったかのように……若い男は喋り出す。
「最近、キレイになった……?」
「ヘェ……??」
不意の言葉に赤面してしまう魔の女が……半歩退く。男がニヤリとする。
「ほらね。女の子は皆、そう〜言われて……美しくなるもなのさ! 分かるだろ、君!?」
指先を顔の横に置いて、左右に振る道雄が……ウインクして微笑む。
「………………」
大きく開かれた女の両目から……なぜか……涙が流れ落ちる。
そして、魔の女は気がつく。
考えてみれば……自分が……女の子扱いされたのは……もう遠い昔……!?
女であり、日々、美しくあろうと努力した時は……確かに……自分にもあったのだと……今更ながらに……知った瞬間だった。
山崎道雄は身をひるがえし、去りぎわに……最後の言葉を吐く。
「私、キレイと……問うのではなく、自ら美しくなりたいと願う心こそが……君を本当に美しくする秘訣ではないだろうか……? そうだろ、君……!?」
「…………………」
涙する女は……語る男の背中を見つめる。
わずかに横顔をさらす道雄の唇が……アデオス……と呟いた……ように見えた。
立ち去る山崎道雄の足跡が、夜空に響く。
見送る白い魔の女は……泣き止み、ポツリと言う。
「……ざけんじゃねえよ、クソガキが……! 私が……キレイに……決まってんだろうが……! バーカ!!」
マスクをマスクを取った口裂け女の口が……大きく裂けながら……笑った。
終わり
--1p--
最初のコメントを投稿しよう!