2948人が本棚に入れています
本棚に追加
「…うん。そうだね。」
"ちひろ。俺はちひろと付き合えた4年間は全然無駄だとは思わない。
こんな風に、決定的な何かが起こらなくても、終わることも、あるんだよな。"
一樹の声は切なく鼓膜を揺らして、鼻の奥がツンと痛むのが分かった。
「…私も、一樹には感謝しかないよ。沢山ありがとう。」
ふっと受話器越しに笑った彼は、じゃあな、と余韻を残さないと言わんばかりに電話を切った。
通話が切れた後も、私は暫く耳にスマホを近づけたまま動けないでいた。
4年間、心から好きだと思った人だった。
だけど。
少しずつ、少しずつ。
自分の気持ちも、相手の気持ちも、離れていくのに気付いていた。
紡いできた時間の愛しさが、私をずっと踏み留めていた。
___あ、ダメだ。
そう思った瞬間溢れ始めた涙に、思わず苦笑い。
こんな顔みんなに見せたら驚かせてしまう。
そう思った私は、ロビー奥の窓を開けてデッキへと出る。
ふわり、春の生温い風が頬を慰めるように撫でて、それがなんだか余計に悲しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!